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  • 2021.11.22
  • チュロス再び
私が最初にナレッジワールドネットワークへ寄稿した記事が公開されたのは2015年1月20日でした。その時のテーマはスペインの代表的な朝食の一つであるチュロスとポーラスです。そして今も掲載されているプロフィール写真もその時のテーマにちなんだもので、古都トレドでチュロスの名店として知られている1946年創業の『Churrería Kiosco Catalino』の厨房で揚げ物修行中?の姿です。


写真1

プロフィール写真では状況がよくわかりませんよね。 写真1の様にフルサイズでご覧いただくと、いたずら現場を押さえられたみたいな驚き顔のおじさんが、太めでとぐろを巻いたポーラス(porras)を揚げ鍋からすくい上げている様子と、その横に揚げ立ての細めで輪になったチュロス(churros)を見て取れます。記事ではこの油で揚げた2種類の粉もんについて説明していますが現在は掲載されていないので一部を転載します。

チュロスについては・・・
≪スペインでは朝食の定番です。見かけは『痩せた揚げドーナツ』、でも、お菓子ではないし、スイーツと呼ぶのは気恥ずかしい、ドーナツの一種と言はれても卵やバターは使わないし、生地を発酵させているわけでもありません。 塩を少々足した強力粉を熱湯で練り、油で揚げた、それだけの単純素朴な『揚げ粉もん』です。毎朝食べても飽きない理由は、この素っ気なさにあるのかもしれません。
しいて特徴といえば星形の断面かしら。むっちりした生地をそのまま高温の油に投入すると爆発の恐れがあるので、瞬時に火が通りやすくするため表面積を増やしているとか。≫・・・と書いています。
確かにスペインでは今でもチュロスを毎朝食べる人が少なからずいらっしゃるでしょう。ここがまず日本のチュロスとは違うところでもありますね。

ポーラスは、よくチュロスと同じ生地を太目にしただけと誤解されがちですが、
・・・
≪その違いは
○ 小麦粉は薄力粉を使用。
○ 若干の重曹を添加。
○ 使うのは熱湯ではなく、ぬるま湯。
○ 生地は固形でなく、ホットケーキの種状態。
○ 断面の直径がチュロス(約1.5cm)より太め(約3cm)。
≫・・・との記述でした。
姿かたちや材料は中華粥のお供の定番揚げ物、油条に酷似しているものの、生地を一晩寝かせたり、揚げる前に成形したりする過程が無いので従弟または義兄弟関係とでも言えますかね。


写真2

このチュロスとポーラスの説明はあくまでもマドリード及び周辺地域でのお話ですので地方によって呼び方や製法が異なる事があります。写真2.は6年前の画像再掲載で、近所の店で購入したチュロスとポーラスです。チュロスは5個、ポーラスは3本で1人前がお約束、それぞれ現在1.5ユーロ(約200円)です。大阪USJで販売しているチュリトス1本分の値段でチュロスだったら15個、ポーラスも9本買えますよ、と相変わらずセコイ話ですみません。
価格だけでなく日本で人気のチュロスはスペインの原種とはまずその材料からして違います。同じなのはベースとなる基本の小麦粉と水だけ、それ以外は牛乳や卵、バター、バニラ・エッセンス、シナモン、蜂蜜などスペイン人から見たらそれこそ臆面もなく異物混入し放題状態、あげくの果てには揚げないバージョンまで登場する始末。ある日本の大手食品メーカーのHPでは『卵や牛乳を使った人気のデザート・菓子レシピ』に掲載されるくらい別物に進化または変化しているようです。

そもそも日本人ほど他国の食べ物を取り入れ、好みの味にアレンジする事に長けている国民も少ないのではないでしょうか。スペインのそっけないほど素朴な味わいのチュロス、動物性油脂を一切使わない、いわゆる地中海ダイエットのお手本のような伝統食と美食大国日本の、鶏卵や乳製品、多彩なフレーバーを使用しリッチな味に変化したチュロスと並べると食の好みを通して国民性の違いを垣間見ることができるかな?と若干大げさな話になりました。

ところで日本ではチュロスという名前は1985年大手製粉会社によって商標登録され現在まで継続されていますし、チュリトスも商社が登録しているのでスペインでは誰でも使える一般名詞ですが、日本ではむやみやたらと商業使用はできないことになりますね。スペインではUDONが商標登録されたのでうどん屋を始める際にUDONという文字は許可なくして使用できないのと似ているかな。
ちなみこの製粉会社のチュロスの成分は、ミックス粉(でん粉、コーンフラワー加工品、ショートニング、卵白粉、卵黄粉、クラッカー粉、香辛料、脱脂粉乳、植物油脂、食塩) 植物油脂/カゼインNa、香料、乳化剤、糊料(グァーガム)、膨張剤、着色料(アナトー、ビタミンB2)、(一部に小麦・卵・乳成分・大豆を含む)だそうです。

話をスペインのチュロスに戻しますと、その姿は大きく分けてスティック型と両端をくっつけた丸型の2種類あります。昔、まだポリエチレンのレジ袋やワックス・ペーパーなどが普及していない頃はマドリードの街角のチュロス屋さんで熱々揚げたてを購入すると、junco churrero と呼ばれるイグサのような植物の茎をこの輪っか型チュロスに通して手提げにしてくれました。私が来西した当時はお持ち帰りチュロスの販売はこの方法が残っていました。再現してみると写真3.のごとしです。


写真3



1903年にマドリードの下町で創業した老舗チュロス屋さん”Churrería Atilano”の昔のカウンターです。チュロス、ポーラス、と揚げ菓子のブニュエロスが2種類、そして奥にはお持ち帰りに使うイグサの束があります。この写真をお借りした本『 Gastronomía Madrileña・マドリードの食』を著した碩学Joaquín de Entrambasaguas 教授はこのカウンターの様子をスルバラン的静物画bodegón zurbaranescoだと解説しています。


この店のご主人アティラーノ・ドミンゴ氏の『マドリード・チュロス・ブニュエロス製造所経営者組合』組合員証で彼は第1号会員でした。この伝説のお店、残念ながら2001年に惜しまれつつ閉店しました。


ついでながら、スペイン絵画の黄金時代17世紀の画家スルバランの作品は2006年の夏から秋口まで大阪市立美術館で開催された『プラド美術館展』に出展されていたのでご覧になった方もいらっしゃるでしょう。ここでご紹介するのは宗教画と共にその時出展された静物画の最高傑作のひとつとも言われている作品です。まさに静謐という言葉がぴったりする画風ですね。


プラド美術館所蔵 スルバラン作『器のある静物 Bodegón con cacharros』

特派員

  • 山田 進
  • 年齢寅( とら )
  • 性別男性
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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