• 2022.10.04
  • Juan Sebastián de Elcano フアン・セバスティアン・デ・エルカノ
16世紀スペインのバスク地方出身の船乗りで冒険家、そして彼の偉業を称えスペイン海軍に所属する帆走練習艦の名称にもなりました。人類史上最初めて単一航海による世界一周が成し遂げられたのは今から丁度500年前のことでした。そのスペイン艦隊の指揮をとっていたのがポルトガル出身で後にスペインに帰化したフェルディナンド・マゼラン、母国ポルトガルではFernão de Magalhães 、スペイン名はFernando de Magallanes, フェルナンド・デ・マガジャネス です。1519年9月20日、アンダルシアの港町 サンルーカル・デ・バラメーダ Sanlúcar de Barramedaを出発してから大西洋、太平洋、インド洋を航海して3年余りの後、1522年9月6日に同じ港に帰着したのです。


図1

出航時は5隻の帆船に275人が乗り込んでいましたが、最終的に戻ってきたのはナオ型と呼ばれる帆船ビクトリア号一隻のみで乗組員も18人だけでした。指揮官であったマゼランは航海半ばの1521年4月27日にセブ王国のマクタン島で戦死してしまい、代わりに指揮を執ったエルカノが部下17人と共に初の世界一周の栄誉を担うことになったのです。図1は世界一周航海の航路で右半分がマゼラン、左半分はエルカノ担当です。出発と帰着地点がセビリアになっていますが海から100㎞あまりの内陸にある河川港なので実質的な海洋航海はサンルーカル港から始まり同港で終わっています。またこの図に破線で示されているのはマゼラン海峡付近から船団を離脱してスペインへ逃げかえったサン・アントニオ号の航路です。


写真1

この500年まえの偉業について多くのマスコミが取り上げていましたが、某全国ネットテレビ局では、突っ込みどころ満載の航路地図を紹介して大炎上しました。写真1はそのとんでも海路図です。そもそもセビリアを出航したのは1519年8月10日で、この地図で示めされている9月10日はサンルーカル出航日です。またマゼラン海峡を通過した後、なにを勘違いしたのかわざわざ北上してペルーとエクアドル国境付近に立ち寄らせています。航海後半もアフリカ大陸周回航路を端折ってなんと350年後の1869年に開通したはずのスエズ運河を無理やり通過させて地中海に入り、ジブラルタル海峡を出て再び大西洋へ乗り出すという荒唐無稽さに、もしかしてGPSをつかっていたかも?などとネット住民たちが大はしゃぎでした。


写真2


写真3

さてこのド級放送事故はさておき、本題の偉業達成500周年記念行事としてスペイン海軍は9月6日 エルカノ一行が出入港したサンルーカル沖合で軍艦のパレードである観艦式を行いました。その際、総司令官として指揮をとったフェリペ6世国王陛下が乗船した旗艦が士官候補生訓練用帆走練習艦Juan Sebastián  de Elcanoです。写真2.は現国王の父君の名前をとった上陸作戦などに出動する強襲揚陸艦 Juan Carlos Iと飛び立った瞬間のハリアーII垂直・短距離離着機を観閲するエルカノです。写真3.エルカノの後ろに続く二隻の帆船は前が世界一周を成し遂げたナオ型ビクトリア号のレプリカで、後ろが17世紀アメリカ貿易に活躍したガレオン船アンダルシア号のレプリカです。


写真4

個人的な思い出で申し訳ありませんが実はこの練習艦エルカノに乗艦したことがあります。今から50年前の1972年、305日間にわたる世界一周遠洋訓練航海の途中で東京に寄港した際、当時スペイン語を学んでいた学生達が語学実習を兼ねて船員一人に学生一人つき東京の街を案内するボランティア・イベントがあり、私も参加して水兵さんを案内したのですが、その時とても印象的だったのがパチンコ屋とかラーメン店など建物に入るごとに脱帽するのです。“天井のある空間では被り物を外すのが礼儀と教わっています”とのことでした。また、ラーメンとコーヒーの値段がなぜ同じなのか不思議がっていたのも思い出します。そして所定の時間が過ぎて帰艦した時に艦内の食堂に案内されてスペイン・ビール “サン・ミゲル”とスペイン・オムレツのトルティージャを振舞って頂きました。 半世紀前、スペインと直接触れ合った懐かしい思い出です。

写真4.はスペイン海軍のHPに掲載されているエルカノ帆走練習艦満帆航行中の雄姿です。

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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