• 2024.07.30
  • グローバルスタンダード
歴史的円安の影響もあり、日本各地で外国人観光客が大量に押しかけてしまうオーバーツーリズム現象が進んできている中で、ある世界遺産の入場料金改定案の検討の際に使われた言葉で、同じサービスや商品に対して支払う価格が外国人と自国民、観光客と地元民で差をつける二重価格設定は世界中で共通する基準という意味だそうです。世界遺産の数でランキング5位、観光立国とも言われているスペインでも人気の世界遺産、モニュメントや教会、美術館等では入場料、入館料等を決めるのにこのグローバルスタンダードを採用しているのでしょうか? 

例えば、バルセロナにある世界遺産サグラダファミリア教会の入場料金設定は国籍、居住地、を問わず一律34ユーロ日本円で約5800円です。2023年の入場者総数470万7367人の内訳は外国人が85%で自国スペイン人訪問者は全体の15%程度でした。もし外国人料金を日本のある施設が検討しているように現行の4倍に設定していたとしたならば莫大な収益増加につながったでしょうし、バックパッカーなど外人エコノミーツーリストなどは入場を諦めて外観の写真撮影で済ませたかもしれませんね。

ところで、この教会には公的資金援助は無く、入場料金、檀家信者の献金、プロモーション活動、グッズ販売等々自己資金だけで建設費、保全修理費、運営費などを賄っているそうです。2026年にメインタワーとなるイエスの塔が出来た後2034年正面入り口の栄光の門が完成し漸く落成となる予定です。ちなみに世界遺産に認定されているのは教会全体の一部分で設計者のガウディが直接建設に携わった写真1の生誕の門と写真2の地下聖堂の二か所です。地下礼拝堂は無理ですが、生誕の門は柵の外から撮影可能なので入場料金はかかりません。


写真1


写真2

次はアンダルシア州のグラナダにある世界遺産アルハンブラ宮殿の例ですが、こちらはあまりにも多くの来場者が押し寄せるので建物と環境保全、混雑緩和の目的で入場者数を年間最多276万3500人と制限しています。特別行事等が企画されていない限り12月25日クリスマス当日と1月1日元旦のみ閉場ですので、単純計算で1日当たりの入場者数は7613人に限られます。事前予約制で実質入場者数は1日当たり6000人に制限している模様です。入場料金は国籍、居住地を問わず一律19.09ユーロで約3250円です。2023年の入場者総数は260万人で外国人の割合は63.9%でした。

ここの特徴の一つとして他の多くの宮殿やお城の様に大理石など高価で貴重な建築材料は極力使用せず、床と柱、一部の壁面以外はレンガ、漆喰、タイルなどすぐ手に入る資材を使っていながら、アラブ建築の最高傑作とも言われている建物に仕上がっているところです。素材の脆さから、経年劣化も早く、保全、修理、復元等々の作業費用もかさむ中、あえて二重価格を設定して訪問客の半数以上を占める外国人からより多くの資金を回収しようという考えには至らないようですね。写真3はイスラム教の開祖マホメットが神からの啓示をうけた洞窟の鍾乳石を模した天井で、漆喰が使われています。写真4は聖典コーランの一節、幾何学模様、草花などがモチーフとなったアラベスク様式で飾られた内装です。


写真3


写真4

スペインの人気観光スポットで忘れられないのが首都マドリードにある国立プラド美術館でしょう。美術館を含む地域が文化的景観として世界遺産に登録されました。入館料は国籍、居住地を問わず一律15ユーロ日本円で約2550円です。2023年度の総入館者数は333万7550人でした。ここで特徴的なのは全入館者のなんと48.2%が無料で入館していることです。多分ヨーロッパでは無料入館者が一番多い美術館でしょう。こちらも入館料は外国人を区別しないグローバルならぬスペインスタンダードですね。写真5は現在のプラド美術館です。写真には入っていませんが近隣にSalón de Reinos 諸王国の間を復元、建築中です。


写真5

(*)一律同料金と申し上げましたが、各施設によって、高齢者割引、団体割引、学生割引、身障者割引、大家族割引、美術館博物館勤務者割引、研究者割引、失業者割引等々の国籍を問わない割引または無料制度があります。

スペインの代表的な例を3つあげましたが、その他のモニュメントを見ても国籍や居住地による二重価格を設定している例は寡聞にして存じ上げません。やはりスペインは国際基準からは外れている辺境の地なのでしょうか?いみじくもナポレオンの言った”ピレネー山脈の向こうはヨーロッパではない”はあながち誇張ではないかもしれませんね。

蛇足とはぞんじますが、日本の二重価格と聞いてすぐに頭に浮かぶのはJR6社が訪日外国人を対象に発行しているジャパンレールパスの価格設定です。 

その取得資格は
〇15日~90日の短期滞在を許可された外国籍を持つ人
〇10年以上連続して海外に在住している日本国籍を持つ人
で。
有効期間は7日間、14日間、21日間で普通車用とグリーン車用があり、最短7日間普通車用で大人50,000円 子供(6歳以上12歳未満)25,000円、最長21日間グリーン車利用でも大人140,000円 子供70,000円でJR6社全線(含むJRバス、JRフェリー、一部の私鉄区間)特急料金、指定席料金も含めて乗り放題の極めてお得な切符です。例外は新幹線のぞみ、みずほ、や寝台車利用時などで追加料金が必要です。


例えば新大阪駅を06時08分に出発、新函館北斗駅13時33分到着、オプションとして構内で『鰊みがき弁当1,180円』を購入した後、取って返して新函館北斗駅を14時48分に出発して新大阪駅に21時48分に帰着する『大阪・北海道弾丸日帰り新幹線の旅』を実施すると日本在住日本国民には往復67,280円(指定席料金込み)かかりますが既に5万円支払った7日間有効普通車用ジャパンレールパス所持者にとっては、この1日で元以上取っていて残りの6日間も乗り放題が続くという、外国人超優遇二重価格が設定されていてインバウンド拡大に貢献しています。

長期海外在住邦人にとっては一時帰国時の強い味方ですのでこのグローバルスタンダード二重価格JRパス大歓迎の立場だと告白せざるを得ません。JR各社様におかれましてはこの切符販売を末永く継続の程お願いする次第です。

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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