• 2018.04.04
  • 現実と非現実
空想の世界に浸っていたご自分の幼少時代を時々思い出したりしませんか?
男の子でしたらミニカーや飛行機などのおもちゃで遊んで、カーレーサーやパイロットになったつもりや、ガンダムのおもちゃを使って悪と戦って勝つ正義の役を果たしたり、女の子でしたら、着せ替え人形やおままごとでシンデレラ風ドレスを着せてみたり又は素敵なおウチに住んで美味しいお料理を作る世界に生きてみたり、、、

彼らのファンタジーの世界には、無限の可能性が溢れています。でもよくよく考えてみると、思っている以上に現実の世界に密着していると思いませんか?遊びながら現実がこうだったらいいなぁという夢や望みの模索でもあり、そしてその夢や希望をどういう手順やどういう過程を踏まえると実現化出来るのかを教えてくれるのが本当は教育の役割と言ってもいいでしょうか。

空想と現実のこの二つの世界が相反していると思うとしたら、それはもしかすると幼少時代を忘れてしまった大人達なのではないでしょうか。子供達に教え諭す役割に集中するばかりに子供達から教えられることが多いことを気が付かない大人達の姿を、子供達は実に冷静に見ているものです。

最近、イタリア人教育者のあるスピーチが私の興味を引きました。彼は彼の教育管轄のイタリアのとある学校とシベリアの学校の友好姉妹校の交流を結び、シベリアの学校はその記念として彼にシベリアの白熊を贈りました。勿論生きている状態ではなくて、はく製。けれども2メートル70センチにも至る圧倒する大きさ。


その噂は児童たちの間で持ちきりになってしまい、とうとう彼は子供達にこの白熊を見せてあげることにしました。迎えに来るお母さん達を予定外に待たせないようにするために授業を15分程早く切り上げてもらって、下校前の250人の子供達を集めて白熊を披露しました。いつもはおしゃべりを止められない騒がしい250人の児童たちが、白熊の迫力に圧倒されて目を丸くして静かにして見つめていました。彼がはく製について説明をしようとする所に小学校の副校長が登場し、彼が話しているマイクに手をあててスピーチを中断。

「この白熊が殺されて、はく製にされたとは言ってはだめです」と彼に囁くのだそうです。ビックリしている彼に、副校長は「あそこに迎えのお母さんの集団が見えているでしょう?この白熊は殺されたと児童達に言うなら、教育機関として不適切でありあるまじき残酷な行為なので、動物愛護協会に報せ、純粋な子供達にショックを与えたという理由で訴えるとお母さん達が息巻いているので、殺されたとは決して言ってはいけません」と命令を下しました。彼は腑に落ちなかったのですが副校長の命令に従いました。

で、何と説明したと思いますか?

「シベリアって君たちの想像には及ばないくらいとても寒い所なんだよ。どれくらい寒いか、って言うとだね、このシベリアの白熊は肺炎になって死んじゃったんだ。それくらい寒い所なんだ」と切り抜けました。
けれども彼はこの出来事に納得がいかず、250人の生徒の10クラスの先生達に次の日の登校時、児童達に会った開口一番に質問させました。あの白熊はどうして死んだのかと。
その結果は、児童全員が「殺された」とすかさず答えたと言う事です。

教育機関と両親の間の問題はともかく、イタリア人のトラブルを回避するそのユーモラスなセンスは圧巻です。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地に、ソロコンサートアンサンブルの編成で演奏活動の傍ら、演劇、画像、舞踊やライブ演奏を組み合わせたマルチスタイルの舞台プロデュース。

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