• 2019.07.12
  • 月づくし
ミラノに暑い夏がやって来ました。山で囲まれたミラノの夏は、吹き通る風も少ない環境に加えて、ヒートアイランドが持つ独特の高熱で、日本の夏の暑さに慣れている人でさえも、干からびてしまいそうな気がするほど暑くなります。プールに飛び込んで、つま先から頭まで冷やしたくなる毎日です。

プールに行く時間が無いなら、プールの写真でも眺めてせめて視覚的に自分を冷やそうと思いミラノのプールを検索していた所、面白いプールを見つけました。

プールに巨大な月。


そうでした、今年の7月はアポロ11号の月面着陸50周年記念日があるので、いつにも増して世界中が月に注目しています。

日本人にとって「月」は、ウサギが月で餅をついていたり、かぐや姫が住んでいるなど情緒溢れた詩的な存在ですが、実際の月は水も無ければ空気も無いような生き物が生き延びられない過酷な所。

西洋人にとって月とはどんな存在なのでしょうか。イタリア語で「月」は女性名詞なので、女性として捉えていています。ブラザー・サン シスター・ムーンは、つい先日亡くなった巨匠演出家、ゼッフィレッリが作った聖フランチェスコの反省を描いた宗教的映画であり、その音楽を担当したオルトラーニは心が洗われるような感動的なメロディーを作り出しました。歌詞からは、聖フランチェスコが、太陽を兄弟と呼んで、月を姉妹と呼んで自然を家族のようにたとえ、美しい愛すべきものと讃えていることが伺えます。

が、イタリアの日常生活で「お月様風」という表現を使うのは、ちょっと気が触れた人のことを意味しているのです。どうやら月の満ち欠けに影響を受けやすい人が不安的な言動をする、ということから発展した表現で、「月」に関してイタリア人は良いイメージを持っていません。

ノルウェーでは、「太陽の東、月の西」という有名なおとぎ話があって「太陽の東、月の西」という言い方はミステリアスな雰囲気や場所を指して使うらしいです。一方、頭が良くて頼り甲斐があるイメージを月に持たせた、アメリカの子供番組もあったと聞いたこともありますが、日本のように月にロマンスを見出し愛情を注いでいる国は珍しいかもしれません。月面調査ならぬ観月調査をする価値がありそうです。


さて、アポロ11号月面着陸50周年記念にちなんで、イギリスのアーチストLuke Jerramが巨大な月を創り、アメリカ、フランス、イギリスの各地で展示され、様々なシチュエーションで鑑賞されています。



その1つが、ミラノのプール。
「月に向かって泳いでみませんか」と言うのが新聞の見出しだったようです。
プール!一番奇抜な環境だと思いませんか。さすがイタリア人!

私が訪れたのは午前中ですが、このお月様プロジェクトの期間中、このプールは午前4時まで開館していると言うので夜間訪問時には、まるで「海の上の満月」それも極上の満月が見られるに違いありません。



先日ロンドンの自然史博物館を訪れた際にも、薄暗い部屋に広がる、そして手で触れられそうなくらいまでに低い位置の吊るしてある 青白い巨大な月、彼の作品を見ました。
他の来館者たちと共に、仄暗い部屋に薄白く光る幻想的なこの作品を眺めながら、人類と月の関係についてしばし思いを馳せました。

あなただったら、どんなお月様プロジェクトにしたでしょうか。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地に、ソロコンサートアンサンブルの編成で演奏活動の傍ら、演劇、画像、舞踊やライブ演奏を組み合わせたマルチスタイルの舞台プロデュース。

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