• 2020.11.30
  • 神父を締め殺したパスタ
海外に行った時に言語の壁に一番大きく躓くのは、よくよく考えると食事時ではないでしょうか?

ガイドブックを片手に観光スポットに行く時、方角、道や入り口などを尋ねたとしても何かしらの言語やジェスチャーで通じるし、表示が整備されたチケット売り場でもそんなに困ることもないはずです。見学においても多数の言語による案内書や音声ガイドが整えられ、公共交通機関の切符購入時には自動販売機などで多数の言語で誘導され、宿泊先のホテルのフロントでも大抵はお決まりのやり取りが交わされるものです。

「世の中、ホント便利になったもんだなぁ〜」とつぶやきながらホテルのベッドに身を投げ出してひと休み。そしてやってくるのが、空腹。

お目当のレストランに到着して着席した途端に始まるあの困った時間。この地域のおすすめ料理を前もって調べておいたにしても、準備は全然十分じゃ無かったゾの時間。


どんな代物か想像もつかないお料理の名前がズラリと並んでいるメニューと周りのお客が食べているお料理とを、代わり番こに見比べる事を繰り返した経験はありませんか?今でこそ、アプリが発達して外国語のメニューを読むのは容易になってきたようですが、何れにせよメニューを渡されると、私は時間制限付きの暗号解読作業に入るような心境に陥り、慌てふためき、実に緊張するのです。同席のイタリア人たちが一言も発せずに黙ってメニューを読んでいる場合には私に更なるプレッシャーを与えます。「これ、美味しいんだよね」とか「ここに来たら、やっぱりこれだよね」とか誰か何か言ってよぉ〜と思う私の頭の中では、タイマー付き爆弾がチクタク鳴っていてなぜか一人でパニックに陥るのです。

ここだけの話、これって本当に私だけ??


イタリア料理は地域性に溢れていて、各地の伝統的手法でこしらえられたお料理が豊富です。そのせいなのか、メニューを読んでも分からない言葉だらけ。例えばパスタの種類。よく知られているのがペンネ、フズィリ、カッペリーニ、タリアテッレ、ファルファッレでしょうか。が、なんとまぁイタリアには500にものぼるパスタの種類があるとか。

すごい!



さてその中で、何でこんな名前のパスタが存在するのかな、と思わされるパスタに出会いました。イタリア在住20年も経つと、メニューで分からない言葉はないとは矢張り言えないけれどメニューを読んで、この単語はおそらく500種類にのぼるパスタ名の一つであろうとか、どこの州の手法でシェフがどんなリタッチを施したという記載なのであろうなどの見当がつくようになってきたので、ウェイターへの質問の仕方も変わってくるようになりました。


で、そのヘンテコな名前のパスタとは、Strozzaprete。神父の締め殺しという意味。


あなただったら、このパスタにどんな由来を想像しますか?このパスタで神父を締め上げた悪人がいたから?このパスタを作るときに針金に絡ませて捻って作ったその捻った形から?それとも神父が喉を詰まらせたくらい美味しいパスタだったから?

主な云われとしては、当時のロマーニャ地方で神父たちは嫌われた存在だったので、と言うのはその当時共産主義を強く訴えた神父たちに市民が閉口していたそうです。加えて神父たちがグルメで大食漢だったので、それを皮肉っていることから由来して名付けられたそう。グルメな退廃した神父たちが欲張って頬張る余りに窒息するような形だからとも云われています。

このパスタの云われがこんな物騒な名前で云われがはっきりしていないところが興味深いと私は思うのですが、どうでしょう?

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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