• 2021.10.07
  • イタリア風隠れ家
人生は遊んで暮らそう、と言うのが日本人が抱いているイタリア人に対するイメージの1つでは無いでしょうか。

仕事一筋に生きる日本人から見ると、イタリア人とはワインとジョークと音楽で人生を謳歌する呑気な民族に見えるに違いありません。が実際のところは、北部と南部では気候が大いに違うので生活スタイルも気質も大きく違っていて、とりわけ北部に位置していてしかも内陸部にあるミラノは商業都市として栄えイタリアの中では急かされる生活リズムを持っています。

ミラノに住み始めて間もない頃に、イタリア人同僚が「ミラノでの仕事は何が大事って、時間厳守。イタリアの中でもミラノは特殊なんだ。それをわかっていないイタリア人が多くてね」と話してくれた時に、仕事で時間厳守は当たり前の日本人の私には吹き出してしまったコメントでもあり、その反面どれくらい時間にルーズなイタリア人達と関わっていく事になるのだろうとイタリア生活の行く先に不安を感じたものでした。

ミラノのオフィスに籠って週日働いた後は、ミラノから逃げ出すかのように海や山や湖畔に繰り出して週末を過ごすのが典型的なミラネーゼ。そんなミラネーゼを真似して、週末に私も地方に逃げてみました。が、選んだ目的地がちょっと遠すぎたかな、、、

ミラノから440キロも離れたアドリア海に面した中世時代の小さな町、Torre di Palme。直訳すると椰子の塔と言う名前のこの丘の上の町は、たったの670人の住民が住んでいます。丘の上からの眺めは絶景で、広がるアドリア海、海岸沿いの松林、San Giorgioと呼ばれる小さな港、いくつものなだらかな丘をも見下ろすことが出来る丘なのですが、実はあまり知られていない観光スポットです。


Torre di Palmeがあるのはマルケ州。マルケ州の都市はフェルモですが、止まると言う意味です。かつ忠実なと言う意味のラテン語の由来を持っていて実際にローマ帝国に忠実だったとか。その影響なのか独立性のキャラクターが強いTorre di Palmeとフェルモが衝突することが多かったそう。この地方で育った私の同僚たち、皆、強情な気質なのは地域性からくるのかしら。


Torre di Palmeは、 町の入り口に立っただけで休まされる気持ちでいっぱいになり滞在が楽しみになるのは、環境保護重視や建物の様式の均一性で際立った調和を保っているからなのでしょう。 イタリアの各地には大小様々な中世の町が残っていますが、Torre di Palmeはその中でもどちらかと言うと隠れ家的な町のようです。有名なシンガーやミュージシャンがミラノで仕事をしない時には、このTorre di Palmeに滞在して密かに次なる創作活動の準備をしているとか。それも大いに頷けるのは、ここでは心も体もリフレッシュできて、シンプルなのに何とも美味しいミラノでは味わえないお料理が新たなる閃きをもたらしてくれるのです。


一見、ワインとジョークと音楽で人生を謳歌するように見えていても、次なる傑作を生み出すための苦悩の日々を送るアーチストの憩いの町なのかもしれません。

そうですよ、イタリア人は皆アーチストなのです。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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