• 2023.01.16
  • 待ち時間
日本の電車の発車ベルが、色々なメロディーになっていて, それを面白く思う観光客も多いのでは無いでしょうか。

駅構内の発車ベルだけでなく、街頭には音や音楽が流れる信号機が多く、聴き慣れた音が鳴り出せば、信号が青に変わるのを見届けることもなく音を合図に横断歩道を渡り出す日本人もいるに違いありません。そうすると面白い事を更に面白くしたがるイタリア人などは、そんな日本の路上の信号待ちの光景で、信号の音響を真似て口笛を吹いてみたりして、反射的に動き出そうとする日本人を発見しては面白がったりしているようですよ。

イタリアの鉄道駅では、基本的には発車ベルはありません。駅構内では、音楽めいたものが流れていることはなく、ミラノでは、コンピューター化された男性の深い声音のアナウンスが、発車する電車のプラットフォームの番号などや遅延のお知らせをするだけ。それこそ気がついたら自分の乗っている電車が静かに走り出していた、という感じ。それでも「もうすぐ出発なので、見送りの方は、電車から降りましょう」と促す車内アナウンスは欠かさずあるところが微笑ましい。見送りに来た家族などが車内まで乗り込んできて、別れを惜しんで話し込んでいるうちに電車が発車してしまっていた、というケースが多々あったのでしょう。


ちなみに、イタリアでは駅周辺や駅構内の治安は悪い方で、駅が持つ機能や役割が日本の駅とは違うのが雰囲気から伺えます。それでも、ここ10年ほどのミラノ中央駅の変化は著しく、ショッピング、グルメスポットなどが増えてきて、照明も明るくなって、駅に対するイメージがだいぶよくなってきました。特に、2021年に駅構内に出来たMercato Centraleと呼ばれるゾーンでの飲食販売店は魅力的で、どのお店に入ろうか、そして何を買おうか又は何を食べようかと選ぶのに困ってしまうくらい美味しそうなものがズラリと並んでいます。それこそ、色々な物に目移りしているうちに電車に乗り遅れてしまいそうなので、本当はここにも嗜めのアナウンスが欲しいくらいです。

一方、イタリアの街頭の信号待ちとはどのようなものでしょうか。場所によっては、青に変わるまでのカウントを表示してくれる所はありますが、音楽が流れる音響式信号にはまだ出会ったことがありません。それは、きっとドライバー大国であることが影響しているのでしょう。

私も運転派で、その信号待ちの間には色々なことが起きます。よく出会うのが、物売り、物乞い、窓拭きと大道芸人です。おもちゃやライターなどを売りに運転席の窓に寄ってくるのですが、私にとってはどれも不必要な物ばかり。なので、首をふって要らないんだ、というジェスチャーをします。一方、窓拭きをする人は、強引な人が多いので、その図々しさに嫌気がさしていて、たとえ私の車の窓ガラスが汚れていても意地を張って、要らない、というジェスチャーをするのですが、それでも窓拭きを強行しようと人が多くて、そうなると車を少々先に進めるか、ワイパーを動かして窓拭きが出来ないように妨害するかして窓拭きを避けるしか方法はありません。物乞いの人も、運転席の窓に顔をヌーっと近づけて、窓ガラスをノックしてきたりして物乞いをします。

私が、窓ガラスを下げてコインをあげるのは、主に大道芸人の人たち。赤信号で止まったドライバー達に見せるために、横断歩道場でパフォーマンスを披露してくれます。街中で、とりわけ赤信号が長いであろう交差点の場所を把握しているのだろうなぁ、と毎回感心してしまいますというのは、まさに秒刻みの世界だからです。アクロバットなパフォーマンスをするだけでなく、演技をし終わったら、信号待ちをしていた車の間を縫ってドライバーたちからお金を集める時間も計算に入れなくてはなりません。それを考えると、彼らにお金が集められる時間が残っているかどうか、見ている私の方が心配になってハラハラしてしまいます。なので、パフォーマンスの内容よりも、その秒刻みの行動に感動している、といった方が正しくて、どうやら私はそれに対してコインをあげていることになるらしい。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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