• 2024.11.06
  • 幸運な村
ミラノに来たことがない人でも、ミラノと聞くと、華やかなファッション ショーや粋な感じに背広を着こなすビジネスマン、夜にはスカラ座でオペラを堪能、そんなイメージを頭に描くのでしょうか?

実生活のミラノがどうであれ、ミラノという名前の持つ響きは、なかなか粋だと思いませんか?その響きだけで、なんだかお洒落な街に住んでるような気がしてくるものです。

現実には、最近のミラノは物騒な面が目立ってきていて、加えて異常気象で集中豪雨があると川は氾濫し、通行不可能になるほどの水たまりが続出し、市民は大童。

それでもミラノは、イタリアが持つ独特のフリースタイルと世界へ発信する挑戦力を備えているように思えるのです。

ところで、小さな村にも関わらず、その名前といい地域性といい「フォルトゥナゴFortunago出身です」と言うのも悪くないと思わせる村が、ミラノから南下して70キロ離れた所にあります。想像がつきやすいように村の名前の由来は「幸運」から来ていて、恐らく名前の通り本当に幸運な経緯を持つのではないかと思います。と言うのは、今では400人足らずの人口の村なのですが、イタリア全国の中で最も美しい村の一つに選ばれています。細い小道と伝統的な石造りの街並みを残し、美しい丘陵地に囲まれているのが特徴で、小高い丘に立地するこの村からは、大小 高低の無数の丘が波を打つかのような素晴らしい景色を楽しめます。



この村の周辺では、中世時にロンバルディア地方全般にわたる戦乱や権力闘争が頻繁に行われていました。が、名前が守ってくれたのか、戦略的には向いていない地点だったのか、大して重要視がされず、そのお陰で村の保存状態が非常に良く、今日では、地元産のワインと伝統料理に舌鼓を打ちながら、村の美しさとリラックスする静寂がこの村を訪れる魅力となっています。

加えて、ちょっとした伝説もいくつかあって、古い邸宅や教会で不思議な現象や幽霊のようなものを見たと言う話が受け継がれているそうです。が、住民は、先祖や村の歴史に敬意を払い、受け入れているとか。

名前に守られて幸運に見えるこの村も、一時は苦労したそうで、それは第二次世界大戦中の出来事。イタリア全土が戦争の影響を受けた時期に、フォルトゥナゴの近隣には、ナチスやファシストの支配に抵抗した労働者や農民で結成された非正規軍が活発に活動していました。彼らはフォルトゥナゴ近辺に広がる山岳地帯の地形を有効に使って潜伏し、ゲリラ戦術を使って戦っていました。

確かに、フォルトゥナゴを目指して丘や谷間の合間をクネクネと曲がりくねる道をドライブしていると、行き先が不透明な箇所があったり、はるか昔には山賊や盗賊が潜んでいたり、ファシストに抵抗するレジスタンスが隠れていたに違いないと想像が膨らむ深い森林を通過するのです。

品質の高い地元のワインと、イタリアで受賞するほどの美味しい地元のサラミに舌鼓を打ちながら、自分自身の幸運に感謝する一時をフォルトゥナゴは与えてくれます。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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