
そんな経験から、改めて「イタリアのSPAって、日本の温泉と何が違うのだろう?」と考えさせられました。
日本で「温泉」といえば、旅館や公共浴場の大きな湯船に浸かり、景色や食事とともにゆったりと過ごす…そんな光景を思い浮かべる人が多いでしょう。一方、イタリアで「SPA(スパ)」と言うと、そのイメージは少し違います。日本では「温泉=湯に浸かる」が中心ですが、イタリアのSPAは「癒しと健康をトータルで楽しむ空間」という意味合いが強いのです。
その背景には、古代ローマ時代から続く浴場文化があります。ローマ人は公衆浴場「テルマエ」で湯浴みをするだけでなく、運動、読書、社交などを楽しみました。その代表例が、3世紀初頭に建設されたカラカラ浴場(Terme di Caracalla)です。面積は約11ヘクタールと広大で、一度に1,600人以上が利用できたとされます。館内には高温の温水浴室、ぬる湯、冷水が揃い、運動場や図書館、庭園まで完備されていました。水は水道橋から引かれ、床下暖房で温められるという高度な設備を誇っていました。
そしてこの「カラカラ」という名前、日本人にはちょっと笑える響きではないです?日本語で「カラカラ」と言うと、空っぽで乾いた様子を指す言葉。「喉がカラカラ」とか「財布がカラ」など、あまり豊かとは言えない状態を連想します。もちろん、かつてのカラカラ浴場はお湯も人もあふれ、決して空っぽではありませんでした。しかし、現在は屋根も失われ、巨大な石造りの空間が静かに残る姿は、まるで 「お湯が抜けて、今はカラカラです」 と冗談を言っているかのようです。

現代のイタリアでも、この伝統は形を変えて受け継がれています。例えば、トスカーナのサトゥルニア温泉やロンバルディア州のボルミオなど、天然温泉地では屋外プールやスチームサウナ、泥パックなどを組み合わせた施設が多く見られます。お湯に浸かるだけでなく、マッサージやアロマテラピー、フィットネスまで揃っているのが特徴です。
イタリアのSPAは、温泉ではなく「心と体を整える癒しの場」。もしイタリアを訪れる機会があれば、歴史ある温泉地やホテルスパ、そして今は「カラカラ」になってしまったカラカラ浴場も訪れて、文化の違いと偶然の言葉の面白さを味わってみてはいかがでしょうか。