• 2025.10.09
  • テレビ番組
イタリアのテレビは、日本人にとって少し驚きかもしれません。日本では「ニュースは淡々と事実を伝えるもの」「年末は紅白歌合戦を家族で見るもの」という共通体験がありますが、イタリアではテレビが「議論の場」。
日本ではNHKを代表に、キャスターが落ち着いた口調でニュースを読み上げます。ところがイタリアでは、事実を伝えるニュースが終わった途端に、各チャンネルで始まるのがニュースで報道された内容の討論番組。政治家や評論家が生放送で激しく言い合い、司会者も喜怒哀楽激しく大声で割って入ります。時には、相手につかみかかってしまうゲストや、出て行ってしまうゲストもいて「これは討論番組というより喧嘩のショーか」と思えるほど。


正直なところ、当初の私はその光景に不愉快さを覚え、誰に対して、何に対してなのか 自分でもよくわからない憤慨をしながらテレビを消したものでした。けれど次第に、これはイタリア人にとって日常的なコミュニケーションの延長線上であり、活発に意見を交わす国民性なのだと理解できるようになりました。それ以来、私も視点を変えて「もっと、やれ〜」感覚で討論番組を見られるようになりました(笑)。
 次に国民的イベント番組。日本では年末の「紅白歌合戦」がその象徴。年越しそばや除夜の鐘と同じく、多くの家庭は「紅白」を見ながら新年を迎えることでしょう。イタリアにもよく似た存在があります。それは2月に行われる「サンレモ音楽祭」です。歌のコンテストですが、単なる音楽番組にとどまらず、司会者のジョークやゲストの政治的発言や激しい言動がふんだんに、そして出演者の衣装など、すべてが連日話題に。放送は5夜連続で長時間にわたり、国全体がサンレモ一色に染まります。紅白が一夜限りなのに対して、サンレモは一週間。これほど長く国民の注目を集める文化的番組は、日本には無いでしょう。
 また、日本のバラエティは芸人が体を張る笑いが中心ですが、イタリアのバラエティは“カリスマ司会者”が主役。観客との掛け合いを交えながら、歌ありコントありで夜更けまで続きます。司会者の個性が番組の人気を左右するのは、日本よりも顕著に出ています。その反面、意外なのがドラマの趣向。イタリアでは「ドン・マッテオ」に代表されるように、カトリックの神父や家族の絆を描くドラマが広く愛されています。
 そして欠かせないのがサッカー中継。日本ではワールドカップや高校野球の時期だけ特別な熱気に包まれますが、イタリアでは毎週末ごとに「セリエA」の生中継に国民が夢中。チームの勝敗が翌日の職場や学校での会話の中心になるほどです。テレビは単なる娯楽を超え、社会を動かす力を持っているとさえ言えます。
 こうして見てみると、日本のテレビが「秩序」を大切にしているのに対し、イタリアのテレビは「議論」「情熱」を前面に。最初はその違いに戸惑い、時に嫌悪すら感じましたが、今では「テレビを通じて国民性を学べる」貴重な体験だと考えています。イタリアに滞在する機会があれば、ぜひ一度テレビをつけてみてください。日本とは違った画面の熱気に、きっと驚かされるはずです。


註釈:私が参加するテレビ番組のディレクターと現場

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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