何千年もの間、アボリジニの人々はさまざまな気候変動の中を生き延び、オーストラリア大陸には異なるアボリジニ言語を使う非常に多くの部族が形成されました。
一般社会に同化して大都市で暮らす人たちもいる一方、アボリジニの伝統を守りながら特定の保護区で生活することを好む人々もいます。
保護区を訪問するには招待されることが条件なので、大抵の場合はアボリジニ族の友人の存在が必要です。
伝説については、昔の民族の多くがそうであったように、オーストラリアのアボリジニも物語を使って自然の偉大な現象を説明していました。
アボリジニの物語や伝説、神話はたくさんあり、「ドリームタイム」とも呼ばれ、民族集団ごとに口伝えで受け継がれています。今は、こうした話を聞くためにわざわざ保護区まで行かなくてもほかにも方法があり、オーストラリアのどの書店に行ってもアボリジニの伝説に関する本がすぐに見つかるでしょう。
ドリームタイムとは万物の起源を説いたアボリジニの「夢」のことで、アボリジニの点描画にも着想を与えてきたものです。この点描画では伝説や神話をヒントに、先祖代々伝えられてきた創造者の夢の世界のシンボルをモチーフとして表現しています。
これらの物語の主役は大体の場合、ある時は人間、ある時は動物あるいは自然のもの、という具合で、どれもすべて精霊です。
有名な神話の中には、川や動物や湖など、自然界にあるさまざまなものの創生の話について比喩的な表現で説明しているものもあります。
私が特に好きなのは、美しい息子を持つ母親と醜い息子を持つ母親という2人の母親が主役の物語。
これは、オーストラリアの動物、カンガルーとジュゴンが誕生するまでのストーリーです。
ある日、醜い息子の母親が、訪れた海辺で美しい男の子を誘拐します。森の中に逃げ込み誰にも見られていないはずと思っていましたが、さらわれた子の母親がこれを見つけ、さらった彼女を追いかけます。2人の母親が揉み合いの修羅場を演じた末に、争いの罰として美しい息子は醜いカエルに、母親たちはカンガルーとジュゴンに、それぞれ姿を変えられてしまいます。
ジュゴンはオーストラリアの動物で、マナティーによく似ています。
このほか、オーストラリアの児童書によく出てくる有名な昔話と言えば、ブーメランの起源についてのお話でしょうか。
はるか昔、ドリームタイムの世界では、地上から近く低いところに空があって、生き物は歩くか這うかの方法で移動していました。ある日、1人の兵士が空を持ち上げるために魔法の棒を作り出します。兵士はその魔法の棒で空を持ち上げると、空の重さのせいで曲がった棒を外し、どこかへ放り投げました。
するとどうでしょう、投げたはずの棒が兵士のもとに戻ってきました。そう、これがブーメラン誕生のお話なのです!その後、兵士はそれを何度も投げ、狩りのために使うようになりました
また、バラマンディと呼ばれる魚にまつわる伝説もあります。ドリームタイムの時代、海には魚がおらず、人々は哺乳動物や木の根、果物のベリーなどを食べていました。
ある日、部族の決まりに反して一緒になろうとする2人の若者が、駆け落ちを決意しました。2人は一族の長老たちに逆らうことを選び村の掟に背きますが、これは死刑に値する重罪で、部族の男たちは彼らの捜索を始めます。
最終的に、若い2人は海が目の前に迫る地の果てにたどり着きます。生き残りたければ、部族の追手と戦うしかありません。
2人は槍をたくさん用意しますが、追手の人数が多すぎたため、水の中に飛び込みました。
魚に姿を変えたその2人が子を作り、いつしか海は多くの魚で満たされるようになったのです。
こうしたさまざまな伝説はとても重要な伝統であり、子どもだけでなく大人にとっても夢のあるものだと私は思っています。
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