自宅にも1匹いますが、何なら100匹でも飼ってみたいほど。
まあ私のことはおいといて、今日はある猫のお話です。
猫というのは好奇心旺盛で、頑固で、かしこい生き物ですが、冒険心まで備えているタイプは世界中でもごくわずか。でも、確かにそういう猫は存在します。
ここシドニーでは、オーストラリアを周回したトリムという猫が有名です。
トリムは18世紀末、インド洋を航海する船の上で生まれました。船の中だけでなく、船が行く先々でも、とにかくすぐにその環境に慣れることができる猫でした。そして、彼が船乗りとしての生来の気質と強靭なサバイバル精神を見せつけるまでに長い時間はかかりませんでした。ある日、港に停泊していた船が大きな波に巻き込まれ、海に投げ出されてしまった時も、トリムはパニックに陥ることなく救助のために投げられた綱をつたって船まで戻ってきたそうです。
シドニーの書店に行ってみると、オーストラリアあるいはシドニーのガイドブックと一緒に、トリムにまつわる本が書棚に並んでいるはず。
つまり、トリムの存在はオーストラリアの歴史の一部なんですね。
さて、話をトリム自身に戻しましょう。子猫のトリムはやがて、胸と脚に白い模様のある黒い毛皮をまとった立派な猫に成長して、船員みんなに愛されるようになりました。
1800年代初頭、世界周遊の旅の終わりに、トリムは短期間「主たる飼い主」の婚礼に伴って短い期間ですが陸上生活を送っています。
その後はまた船に戻り、オーストラリア大陸を周回する旅を続けました。戦争中に飼い主が捕虜になってしまった時ですら、トリムは彼のそばを離れませんでした。
悲劇と呼ぶべきなのは、その飼い主が陸の上の貴婦人にトリムを託したことです。
その女性もまたトリムを可愛がり、手厚く世話しようとしましたが、トリムは彼女の前から姿を消し、二度と戻ることはありませんでした。その後、おそらくどこかで死んでしまったのだろうということです。
トリムはまだ老猫ではありませんでしたが、飼い主の探検家は、船よりも陸上の方が快適で温かい家で暮らせるはずだと考えたのでした。
しかし、その思惑は間違いだったのです。トリムは冒険好きで、飼い主との再会を最後まであきらめない野心の持ち主でした。
オーストラリアにはトリムの銅像が2つあります。
その1つは、この猫の飼い主である探検家マシュー・フリンダースを記念した最初の銅像とともに建てられており、現在もフリンダース生誕の地、ドニントンで見ることができます。
2つめは、シドニーにあるトリム単体のブロンズ像です。こちらは、シドニーにある小さな図書館の窓の下にたたずんでいます。
この図書館には「トリム」と名付けられたカフェもあり、ショップにもトリム関連のグッズがたくさん並んでいます。
像の下の碑にはこんな一文が刻まれています。
「トリムを偲んで
猫という種族の中でも最も傑出した魅力を備えた彼は、最も忠実な友人であり、従者であり、何よりもこの上なく素晴らしい動物であった。
世界の裏側まで旅をし、オーストラリアを周回したこの猫は、ともに船に乗る人々にとって常に喜びと楽しみの源であった。
喜びを余すところなく伝える姿を幾度も目にし、目を見張るほどの知性に驚かされることもあった。
こんな猫は他にはいないだろう!
安らかに眠れ。
そして彼の思い出が永遠であるように。」(引用)
トリムの魂の行く末は分かりませんが、人々の心に存在し続けていることは間違いありません。