科学者たちはオーストラリアの石炭政策に強く反発しています。石炭の燃焼に依存したエネルギー政策を終わらせない限り、気候変動がもたらす最も悲惨な影響を回避できるチャンスは失われるだろう、と警告しています。しかし、オーストラリアは石炭に感情的にも歴史的にもつながりがあり、それによって政策が形成され続けてきたのです。オーストラリアでは、主な発電方法として石炭の燃焼を利用しています。エネルギー源としては質がよくないことで知られる褐炭(リグナイト)という石炭の一種が大量に採れるからです。
褐炭は黒炭よりも水分が多く、燃焼時により深刻な大気汚染を引き起こします。簡単に言えば、褐炭を燃やせば燃やすほど空気はますます汚れて気温も上昇し、大きな環境問題につながるのです。
ところで、石炭とは何なのでしょう?
石炭は、地下や露天掘りの鉱山から採掘した、あるいは人工的に作られた化石燃料、または堆積岩のこと。石炭の生成は、何百万年も昔にさかのぼります。高温多湿な気候と高濃度の二酸化炭素が巨木の成長を促し、それらの木々は枯れたのちに洪水によって堆積し広大な木の層が形成されましたが、特定の菌やバクテリアが存在しなかったので分解が進みませんでした。その堆積物にさまざまな物質が沈殿して周りを覆い、地中で強い圧力と無酸素状態を生み出します。この一連のプロセスにより、石炭が生成されます。
オーストラリアは世界でも有数の石炭輸出国。さらに言えば、国内向けに採掘される石炭の大半は発電に使われています。
オーストラリア連邦政府や各州政府は、国内の石炭の売上げから多大な利益を得ています。特許権使用料と製造や販売に課せられる所得税を徴収し、大金を稼いでいるのです。それらの収益によって、国民が高水準の生活を維持するために必要な質の高いサービスを提供しています。また、政府は鉱業とそれに依存する関連企業が提供する安定した雇用によって、田舎の町を支援しています。
石炭の主要な問題のひとつが、採掘によりメタンガスが排出される点です。オーストラリアには今も稼働している炭鉱が数カ所あります。ここから排出されるメタンガスの正確な量は分かっていませんし、国が正式に発表する総排出量にそれらが含まれているか否かも知らされていません。さらに深刻なのは、石炭が燃える際に二酸化炭素が発生すること。オーストラリア国内と世界のCO2排出量の30%は石炭由来である、という試算もあります。
石炭の採掘とその燃焼は、地球温暖化の主な原因となっていて、気候にも影響を及ぼしています。近年、エネルギー資源と世界的な異常気象現象の頻度やその深刻さの高まりとの相関関係が研究されてきました。異常気象現象が増えた結果、人々からの反発も高まりつつあります。とくに若い世代の人々は運動の前線に立ち、より積極的に温室効果ガスの排出量削減に取り組むよう、政府に訴えています。
オーストラリアには今、気候変動と石炭との相関関係を認めようとしない過激な否定論者もいて、政府もその意見には明確に異を唱えようとしません。しかし、今年の初めに起きた大火災により抗議の声は激化し、この問題は常に進行形で存在しています。
長引く干ばつや山火事、洪水、熱波など、ここ数年は深刻な気象現象のせいでさまざまな被害が生じました。この結果、記録的な高温に見舞われ、夏が5~6週間も長く続くことになりました。その影響で膨大な数の野生生物と生息環境が失われました。土地や家畜も消滅してしまい、これほどの破壊的な災難が二度と起こらないと仮定しても、元の状態を取り戻すのに3年から5年かかると言われています。
WWF(世界自然保護基金)オーストラリアの試算では、山火事で命を落とした動物の数は10億にも上り、その中にはコアラやカンガルー、ワラビー、コカトゥー(バタンインコ)ほか多くの鳥の種が含まれています。同団体は、いくつかの種が絶滅の危機にあるとの声明を発表しています。