- 2015.05.28
- 古代ローマ人も現代人も魅了される花の都 フィレンツェの春
フィレンツェは、教会や美術館で見ることのできる美術品をはじめ、歴史的建造物や橋、周囲の丘が織り成す景観など、いつ訪れても見ごたえのある街ですが、どの季節が一番美しいかと聞かれると私は「春でしょう。」とお答えしています。ナポリなど海に近い町が夏に近づくにつれて輝きを増すように、フィレンツェとトスカーナ州の街や丘も、4月の終わりから初夏にかけていっせいに芽吹き、咲き誇る花や若葉・青葉で覆われます。トスカーナの丘の特徴である、なだらかで丸い曲線の作る様々な緑のグラデーションと、咲き誇る花々に彩られた街々は“スウィート・トスカニー”と世界中の旅行者から讃えられます。冬の間眠っていた山や公園、自宅の庭の樹木が芽吹き、花を咲かせるのを朝夕に見守るのは、観光客のみならずイタリア人にとっても、大きな喜びです。テラスや小スペースでの鉢植えから庭・庭園に至るまで、自宅で植物を育てているのを多く見かけます。上手に咲かせた花を褒めたり、それを自慢したりするのは、友人同士でも初対面の人同士の間でも、最高の春の挨拶になります。さて、フィレンツェの街の古い起源は古代エトゥルリア人の町ですが、現在の街の形成に直接繋がるのはローマ人の移入による殖民都市で、ユリウス・カエサルが紀元前59年に建設したとされているのが最も有力な説です。この際に春の女神「フローラ(Flora)」の街としてラテン語の「フロレンティア(Florentia)」と名づけたことが、街の名前の語源とされています。 この、丘に囲まれた平野に咲き誇る花は、古代ローマ人の心をも捉えたに違いありません。女神フローラに捧げられた儀式と祝祭日が4月28日から5月3日にかけて行われていたようです。その名残でしょうか、市民の楽しみの一つである毎年恒例の「植木と花の展示会・即売会」が4月の終わりから5月の始めに開かれます。週末をピークに多くの人が見物や、自宅用の新しい草木を買い求めに出かけます。各地の庭や会場は野外の場合が多く、ベビーカーを押す若い夫婦や、犬を連れて散歩に来る人など、それぞれのスタイルで楽しんでいます。青空の下で、バラやレモンの香り、色とりどりのめずらしい植物に囲まれて、見物に訪れた友人同士が偶然出会う、そんな優雅な社交場でもあるようです。最後にフィレンツェ市の花、アイリスのお話を少しだけ。11世紀には既に市のシンボルとなっていたアイリスは、現在でも正式な市のエンブレムに公式採用され続け、街の歴史を語る上でも重要な位置を占めています。中世ヨーロッパの中でも有数の財力を誇ったこの街の通貨は、世界最初期の国際通商金貨として各国からの信用を得ていました。1252年から発行された金貨の上にも、フィレンツェのゆりと呼ばれる、実際には白色のアイリスが刻印されていました。春の女神の街が発行する花の金貨は「フィオリーノ(Fiorino)」と呼ばれ、後にルネサンスが起こるこの街を支えました。