今年5月、ウェストミンスター宮殿の英国会議事堂にて英国議会の開会式が行われ、エリザベス女王が政府の施政方針演説を読み上げました。その中で女王は、英国政府がアニマルウェルフェア(動物福祉)の基準向上の推進に尽力することを発表しました。
新たに制定される動物福祉法には、畜産用および屠殺用の動物に関する具体的な変更内容も記載されるようです。
今回、環境・食糧・農村地域相が策定した「動物福祉のための行動計画」には一連の重要施策が盛り込まれています。イギリス国内の農場の環境改善もその一つですが、それだけではありません。
食肉を目的とする生きた動物の輸出中止や、国内移送中の動物の環境改善、危険な状況から農場の動物を保護するための警察力の強化、ケージ飼いの農場に対するチェックの強化、農場経営者に対する動物の権利尊重のためのインセンティブの提供などが、計画には含まれています。
このほか、この行動計画の基本的な特徴の一つに、感覚を持つ生き物として動物を認識することが求められている点が挙げられます。
これは、国内の多くの組織が政府に動物保護の改善を求めるキャンペーンを展開し、何十万人分もの署名を集めて勝ち取った、大きな進歩なのです。
また、イギリス政府による動物の権利保護を支援する取り組みの対象は国内にとどまらず、行動計画では国外の動物福祉の向上を目的とする一連の新規制も対象とされています。フォアグラの販売禁止案もその一例です。
この計画には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行が大きく関係しています。このパンデミックを機に、人間と自然との距離が縮まり、人々は健康な暮らしにますます目を向け、健康的なライフスタイルを求めて食事を見直すようになりました。さらに、こうした変化すべてのおかげで、自分たち人間がこれまでいかに間違っていたかを知ることができたことが背景にあります。
ともかくも、やり直せるチャンスはまだあるはずです。
さて、この国で期待できる側面がもう一つあります。それはEUから離脱したことです。
離脱したおかげで、物品の輸入に関して、したがって食品や動物の輸入に関しても今なら自由に法を制定できるというわけです。
このような一連の状況から、イギリス政府は、新法の成立とともに動物福祉と気候危機の間に共通したテーマがあることを認識することになるでしょう。
畜産業によって生じる膨大な量の二酸化炭素も、動物に対する最善の扱いを目的とする新法が施行されれば、激減する可能性があります。
また一方で、この新しい法律は、政府の新しいルールが実際に実行され、何よりも尊重されることを監督できる新しい人物が配置されることを意味します。
もちろん、関連省庁を支援できる資金の準備も必要となってくるでしょう。
イギリスは、パンデミックが起こる前から、国として世界で初めて気候非常事態を宣言しました。イギリスに続いて世界中の何十もの自治体が気候非常事態を宣言しましたが、今後さらに多くの自治体がこれに続くと思われます。
イギリス議会は2019年に気候と環境に関する非常事態を宣言し、スウェーデンの環境保護活動家グレタ・トゥーンベリさんをゲストスピーカーとして度々ロンドンに迎えています。
また、ロンドンでは大勢の若者がデモに参加してきました。
今年は11歳のジュードくんがイングランド北部のヨークシャーの自宅からロンドンまで200kmを歩き続けたとか。
その目的はイギリスの政治家たちを説得し、とても気にかけている炭素税(二酸化炭素の排出に応じて石油や石炭などの化石燃料の利用に課される税)について承認させることでした。
環境のためになされてきたさまざまな取り組みが今、成果を挙げつつあります。
ロンドン各所に設置された空気汚染探知センサーでは、現在の市内の空気は10年前に比べてはるかにきれいになっていることが確認されています。さらに、新たに導入された「超低排出ゾーン」規制では二酸化炭素の排出量が少ない低排出バスなどの運行が推奨され、環境汚染度の最も高い車両が走行する場合には日税が義務付けられるようになったため、スモッグの発生状況は飛躍的に改善しています。
とはいえ、できることはまだまだ、たくさんあります。
主に交通機関やガスコンロ、たばこの煙などから発生する二酸化窒素は、目や鼻、喉に刺激を与え、子どもや喘息患者の人たち、慢性的な呼吸器疾患を持つ人々の呼吸機能を低下させる可能性があります。ロンドンではこれまで二酸化窒素が法的上限を超えていましたが、今年の調査では過去10年で初めて大気質の指数が上限を下回ったそうです。
- 2021.11.25
- 動物福祉とロンドンの大気質