ところがここ10年、世界中を旅してきたアングロサクソン系のカリスマシェフたちが、私たちの目の前で大変革を起こしてきました。この変革は、イギリスの偉大な食の伝統をよみがえらせてくれました。
ただ、デザートについてはイギリス人が長けていることに異論をはさむ人はいないはずです。
伝統的な美味しいレシピに加えて、今日私たちにお馴染みの、あの何層にもなるウェディングケーキを発明したのもイギリス人です。
ビクトリア女王の結婚式から生まれたこのケーキは、白いアイシングで彩られたデコレーションケーキの先駆けとなりました。
当時、精製された砂糖が手に入るのは裕福な家庭に限られていたので、このケーキはまさにぜいたく品でした。
さて、イングランドで最も古いお菓子の一つに、日にちの経ったパンと牛乳、砂糖、卵で作るブレッド・アンド・バター・プディング(bread and butter pudding)があります。
イギリスの人々にとっては、残りもののサンドイッチ用パンで母親がこの甘いご馳走を作ってくれていた幼いころを思い出すお菓子です。
シンプルなお菓子で作り方もそんなに難しくないので、これは間違いなくコンフォートフードでしょう。
ほかにも最近見つけて面白いなと思っているのは「イートン・メス」(Eaton mess)というデザートです。
言い伝えによれば、「messy」(訳註:色々な食材を混ぜ合わせること、料理の量が多いこと、など諸説あります)なこのデザートは、イングランドの私立の最名門校イートン校とハロー校が毎年6月に対戦するクリケットの試合で出されてきた一品なのだとか。「イートン・メス」の名もここから生まれたそうです。
砕いたメレンゲ、生クリーム、苺のピューレ、カットした苺をカップに盛りつけたお菓子です。
今や6月に限らず楽しめる定番のスイーツとなったこのデザート。ミシュランの星つきのレストランでもパブでも、中に入れる新鮮なフルーツを少し変えたり、ニワトコの実やジンジャーコーディアルを添えたりなど、様々なアレンジで提供されています。
このほか、イギリス文化になくてはならない、最もこの国らしい特色あるデザートの一つが「バッテンバーグ・ケーキ」(Battenberg cake)です。
ドイツのバッテンバーグ(バッテンベルク)家の王子とビクトリア女王の孫娘ビクトリア王女のご成婚を祝って考案されたケーキだそうです。
ピンクとイエローの市松模様のケーキで、この模様にするために、まず2種類の生地を焼き、焼き上がるとそれぞれカットし、カットした生地を組み合わせて再び長方形のケーキを作ります。生地のいたるところをアプリコットジャムで「つなぎ」、最後にケーキ全体をマジパンでコーティングします。
見た目も味も素敵ですが、手間暇がかかるため、なかなかお目にかかれないお菓子です。
また、キャラメルとデーツ(なつめやし)を使った「スティッキー・トフィー・プディングのホットウィスキーソース添え」(Sticky toffee pudding with hot whiskey sauce)というものもあります。
温めたトフィーのソースをかけ、その上にウィスキーをたらしていただきます。
すでにお気づきの方もあるかもしれませんが、プディングはイギリスではお菓子の王様、いえ女王様とも言うべき存在です。
女王と言えば、人気の高い美味しいお菓子はほかにもあり、その名もプディングの女王、「クィーン・オブ・プディング」(Queen of puddings)。レモンの皮の風味を効かせたパン粉を生地に使い、間にジャムを一段はさみ、出来立てのメレンゲを一面にのせたお菓子です。
クィーン・オブ・プディング
「スコーン」(scones)は、キューカンバー・サンド(バターとキュウリをはさんだサンドイッチ)に次いで、紅茶のお供によく出される、まさにイギリスらしいお菓子兼軽食です。
ケーキほど甘くはないですがケーキに似た食感があり、サンドイッチとケーキの中間のような食べ物です。
ストロベリーかラズベリーのジャムにクロテッド・クリーム(固めのクリーム)をのせていただきます。
最後に忘れてはならないのが、バノフィー・パイ(Banoffee pie)。バナナとトフィーが素晴らしいハーモニーを奏でるお菓子です。
英語圏の国ならどこでも定番のペーストリーですが、下地はショートクラストのペーストリーの代わりにダイジェスティブ・ビスケットを砕いたものに溶かしバター(チーズケーキを作るときと同じ)を、クリームは缶詰と、手っ取り早く代用して作られることが多いです。たいていの人に人気があるので、ポットラック・パーティーやビジネスのイベントでも、よく作られるデザートです。