私が単なる音楽レーベル業をやめて、音をミューズ芸術ではなく、ひとつの造形芸術として捉える空間的芸術として鑑賞できる方法論を求め始めたのは、フランクフルト・アム・マイン (Frankfurt am Main)、ケルン (Koeln 又は Cologne)、
ベルリンに来て様々なサウンドアーティストに出会ったのがきっかけだった。ベルリンのサウンドアート専門のギャラリー・マリオ・マッツォーリ (Galerie Mario Mazzoli)や、カーステン・ニコライのアイゲン・アート・ギャラリー (Galerie Eigen Art)はonpaのサウンドアーティストも関連する場所でもあったため、ここに来るいわゆる音の彫刻家たちとの邂逅があり、そもそもベルリンはDAADやギャラリー・ジャノッツォ (Galerie Giannozzo) などで決定的なサウンドアートの土台を前世紀後半に形成していった都市だった。また、CANのメンバー、イルミン・シュミット (Irmin Schmidt) との仕事を通して学んだケルンの電子音楽、そしてフランクフルト・アム・マインを拠点に活動する数多くの電子音楽家たちとの交流。それぞれの経験値によって、単にレコードやCDをリリースすることが気怠くなり、音楽レーベルとして作品を発表し続ける形態について、なんら芸術的進化の累進性をこの時代に感じなくなってしまった。そして現在、メディアアートのキュレイトリアル・コレクティヴとして活動するonpaとなった。今回紹介したいのは、私がドイツ移住の際の最初の居住地となったフランクフルト・アム・マイン(日本では単にフランクフルトと呼ばれるが)に新しくオープンする音の博物館「MOMEM –Museum of Modern Electronic Music」だ。
フランクフルトがあるヘッセン州には、スヴェン・フェイト(Sven Väth)というテクノサウンドの巨匠や、ミルプラトー(Mille Plateaux)という歴史ある電子音楽レーベル他、数多くの関係者が拠点にしている州で、MOMEMがフランクフルトにできることは自然な流れではなかったかと思う。オープンは来年。しかし早くもサポータークラブも設立され、ベルリン拠点のonpaもMOMEMのサポーターメンバーになっている。コンセプトを聞く限りでは、サウンド、ファッション、ツール、アプリ、クラブカルチャー、スペース、メディア、インタラクティヴなどのキーワードを柱にし、アップデートされ続けるデジタルテクノロジーでオーガナイズされていく電子社会文化史の記念碑的存在に発展していくようで、単に音楽、音、芸術にとどまらないジャンルレスなアートシーンのスタートアップとも言える。
IoTが進化をしていくなかで、これからの美術館、博物館、ギャラリーは、その空間的芸術がどうデジタル社会と交わりあってくるのか、そして地政学的文化の見え方がどう変化していくのかをキャッチアップするための、良い手本になる博物館になりそうな気配がする。MOMEM:
http://momem.org/