• 2016.08.23
  • 世界最速で飛ぶ鳥落とす勢いのメディアアーティスト
9月18日まで開催中の第9回『ベルリン・ビエンナーレ(Berlin Biennale für zeitgenössische Kunst)』には、今回も錚々たるアーティストと作品が紹介されている。

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そして今回はどうしても見過ごすことのできないメディアアーティスト Hito Steyerlの作品が展示されている。ミュンヘン生まれでハーフジャパニーズの彼女は、現在はベルリンの芸大UDKのメディアアート科で教授を務めていることでも広く知られている。
彼女の展示は『The Tower』と『ExtraSpaceCraft』の2つの映像作品。
この地球上のやっかいな問題を題材にして、とにかく深遠で学際的な視点で過去と未来を表現した3D映像だ。過去と未来が同一の一本の帯上で繰り広げられているようなストーリー設定で、コンセプチュアルな映像に仕上げられている。
例えば、かつてその主人公はソ連の軍事施設で働いていた。21世紀のいま、その軍事施設だった土地はロシア占領下のウクライナの地にある。彼は3D映像の制作会社をその領内に立ち上げることになる。
また、もう一本はイラクに実在する天文台(1970年代建立)にフォーカス。かつて山岳ゲリラとして活躍していた主人公が、イラン・イラク戦争でドローンのパイロット訓練を受けていた。戦争が終わり、彼はドローンでの天文台撮影に挑戦する。過去や現在の時間軸が溶け合っているようなストーリー。
2つの作品に共通して出てくる建造物が、サダムフセインが完成させようとしていたというバベルの塔だ。昔の人々はバベルの塔を築き、神に近づくため、現実を知るために星を見上げた。現代は、スマホ用のwifiが飛んでいますようにと願う時にしか空を見上げない。そんな皮肉をHito Steyerlは作品の中に落とし込む一方、ウクライナ領内の3D映像制作会社、そしてイラク領クルディスタンの天文台は、それぞれテロリスト監視態勢下の領土にあるものとして、このフィクションと現実とを巧みに重ね合わせたヴァーチャルな対象物として表現している。

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リアルな戦争の現場と、サイバー上の戦争の現場が、今私たちにとってどういう距離感で存在しているのか、そして、ポリティカルな思想がデジタル社会でどう伝播していき、人々の行動にどういう影響を与えていくのかを考えさせられる。それと同時に、メディアアートの領域において、作品完成へ至るその道程は彼女らしいエステティックス追求の結果だというのもわかる。彼女は美意識と数学的思考の間に存在する切っても切れない関係性を強調する。アートの領域におけるタームとして「マサマティックス・モデリング」という言葉を用いているのだ。「予想」「まだ知られざる未来」「将来価値や行動予想」など、何が現実となるのか、またはならないのかを求めるデータはまさに数学的抽象アートにあると捉える。この解釈は面白い!彼女は、経済危機発生のメカニズムに関するポール・クルーグマンのコラムを読んだ時に、そのデータが表現するフォーメーションがなんと気品のある、いかに魅惑的な数理データだったか感動したと語っている。
アートにおいて美しいと表現される抽象概念が、数学の世界に置き換えられるという考え方があまりにも自分の思考にぴったりしすぎていて、彼女を形容するFuture Was Futureの意味がよくわかる展示だった。

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特派員

  • 羽生 和仁
  • 職業キュレーター、メディアアートマネージメント

2001年ベルリンにて、メディアアートのキュレーションレーベルonpa)))))を設立。世界各国のアーティストやフェスティヴァルとの人脈を構築。ベルリンと東京のジェットセッターとして活動中。

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