私が訪れたのは9月のある晴れた日の午後で、日本とは真逆の季節、冬が終わり春の柔らかい日差しが降り注ぐ時期でした。国立公園への入園にはパスが必要で、これは自然環境を保護するための措置です。園内にはキャンプ場やビーチがあり、まだ少し肌寒い季節だったため、泳いでいる人はいませんでした。青空の下、木々の間をゆっくり歩いていると、突然野生のカンガルーと出会いました。
驚いたのは、カンガルーたちが人間をまったく怖がらないことです。むしろこちらをじっと見つめ、カメラを向けるとまるで言葉が通じたかのようにカメラ目線をくれました。「野生のカンガルーってこんなにフレンドリーなの?」と、心がじんわり温かくなる瞬間でした。さらに感動的だったのは、母親カンガルーの袋から小さな赤ちゃんが顔をのぞかせた瞬間です。まだ柔らかそうな毛並みの小さな頭が、ひょっこりと袋から顔を出し、思わず笑みがこぼれました。都会ではなかなか味わえない、野生動物との至近距離での出会いは、とても貴重で嬉しい体験でした。
こうした出会いは、果たして偶然のラッキーな出来事なのでしょうか。地元の人に尋ねると、ジャービスベイ周辺では比較的よく見られる光景だそうです。それでも、カンガルーたちが安心して人前に姿を見せてくれるのは、この場所の自然がしっかりと守られている証拠にほかなりません。野生動物と人間の距離を保ちつつ、互いに干渉しすぎない絶妙なバランスがここにはあります。観光地化が進む中でも、動物たちが穏やかに暮らせる環境を守ることが、私たち訪れる者の責任であると改めて感じました。
ジャービスベイ国立公園では、白砂のビーチとして世界的に有名なハイアムズ・ビーチ(Hyams Beach)や、美しい森のトレッキングコースなども楽しめます。自然の音や香り、柔らかい光に包まれながら散策すると、オーストラリアの大自然の豊かさと、そこに生きる命の尊さを静かに感じることができます。都会の便利さや快適さとは違う、ゆったりとした時間の流れがここにはあり、自然と生命の存在を肌で実感できる貴重な場所です。シドニーの都会暮らしでは味わえない、この静かな感動を求めて、多くの人々が訪れる理由がわかります。
