• 2015.11.13
  • 死者を偲ぶ
イタリアは公式には宗教と政治が分離した世俗国家とみなされていますが、宗教的祭日は今なお健在で、カトリックの伝統どおりに各地で祝われています。クリスマスとイースターに続いて最も重要な宗教的祭日は、諸聖人の日(万聖節)と死者の日(万霊節)です。それぞれ、毎年11月1日と11月2日にあたります。

カトリック教会のこれら2つの祭事は死者とその魂を追悼することが目的で、リグーリア地方の人々は懺悔と悲嘆を表す紫か黒の洋服を身に着ける慣習があります。不死の魂が存在するという考えは西洋哲学まで遡ることができ、後に新約聖書の起草に影響して死者の蘇りが正当化されるに至りました。

11月2日に祝う死者の日は、亡くなった信者を追悼するローマ・カトリック教会の祭日です。生前に犯した罪が浄化されていない死者の魂は至福に至ることが出来ず、祈りと彼らに捧げる追悼ミサによって至福への到達を助けなくてはならない、とする教理です。死者の日にまつわる民俗信仰には異教に端を発する要素も含まれ、それらでは、死者の日の前夜に死者の魂は生前暮らしていた家へ戻り、生者を訪れて祝宴を共にすると信じられています。このような信条を守り続け、11月1日の夜、「魂にご馳走する」食物を窓に置く家庭もあります。

「イル・パン・デイ・モルティ」すなわち「死者のパン」は、特にこの宗教祭日のために作られるしっとりしたシナモン・クッキーです。11月2日の少し前から11月2日までの期間限定でベーカリーに並びます。クッキーには白い粉砂糖や色をつけた砂糖衣がかけられ、世を去って久しい愛する人々の懐かしい想い出を骨の形で象徴しています。

012_151113_1 骨の形をした伝統的なクッキーパン・デイ・モルティ」

この2日間の祭日中、イタリアの人々は墓地へ行き、亡くなった家族に花(たいてい菊の花)と「ルミニ」を捧げます。「ルミニ」はガラスの容器に入った特別なキャンドルで、消えるまで何日も燃え続けます。中には、縁者が眠る遠い田舎の墓地まで出向く人もいます。

012_151113_2 魂を追悼するキャンドル「ルミニ」
012_151113_3 地方の丘の上の墓地

文字通り「諸聖人の前夜-All Hallows’ Eve」を意味し、実際に諸聖人の日の前夜にあたるハロウィーンは、近年になってようやくイタリアに入ってきましたが、まだそれほど普及してはいません。目下のところ、カボチャの形をしたアクセサリーやお菓子が売られ、子供たちが「トリック・オア・トリート」を楽しみ、コスチュームで仮装したテーマ・パーティが開かれるだけの商業的なお祭りに過ぎません。

012_151113_4 イタリアでは目新しいハロウィーンのお菓子
012_151113_5 仮装パーティ用のハロウィーン・アクセサリー

イタリアでは、カトリック教会の慣習の一環として死者の追悼が非常に重要視され、国内の多くのピアッツェ(広場)や街路には戦いで命を落とした殉教者の名前がつけられています。

リグーリア地方にあるサヴォーナの町には、あらゆる戦いの死者に捧げたピアッツァ・マメーリ(イタリア国歌の作詞家でもある愛国者ゴッフレード・マメーリにちなんで命名)という広場があります。サヴォーナの真ん中に位置するピアッツァ・マメーリは、1日の例外もなく毎日夕方6時きっかりにすべての物や人が動きを止め、戦争で命を落とした兵士や市民を1分間追悼するとても特別な広場です。

毎日、夕方の6時になると、歩行者は全員歩くのを止めて1分間「フリーズ」します。全ての車は路肩に停車しなくてはなりません。戦死者へ敬意を表する1分間の沈黙という儀式を順守するため、特にこの時間この場所へ警察官が派遣されます。ピアッツァ・マメーリの中央にある追悼の鐘は21回鳴らされます。イタリア語のアルファベットは21文字なので、全ての戦死者の名前のイニシャルが含まれるという発想です。サヴォーナの住民にとっては80年以上続いてきた当たり前の儀式ですが、初めてサヴォーナを訪れた人にとっては、ここでしか体験できないとてもユニークで感動的な体験です。

012_151113_6 リグーリア地方サヴォーナのピアッツァ・マメーリにある追悼の鐘



特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 職業翻訳、通訳、教師

生まれはイタリアですが、5ヶ国語が話せる「多文化人」です。米国、ブラジル、オーストラリア、フランス、イギリスで暮らし、仕事をした経験があります。イタリアと米国の国籍を持っていますが、私自身は世界市民だと思っています。教師や翻訳の仕事をしていない時は、イタリア料理を作ったり、ハイキングをしたり、世界各地を旅行したり…これまで80カ国を旅しましたが、その数は今も増え続けています!

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