• 2021.01.21
  • リグーリア ブログ-方言の保護、未来への願い
この多様な文化に囲まれた科学的・技術的社会で生きていると、とかく新しい言葉を使うことにも慣れがちで、携帯のメッセージやメールを多用する若い人たちには特にこの傾向が顕著ですね。加えて少しずつ、そしてほとんど無意識のうちに、時には間違った使い方であっても、外来語(当然、英語が中心です)を使うのにも慣れっこになります。

今年はコロナ禍ということもあり、イタリアでも多くの人が開始した在宅勤務。イタリア人はこれを「スマートワーク」と呼んでいますが、正しい英語はremote working(リモートワーク)です。電話の回数も増えましたが、この場合もイタリア語のchiamate(キアマート)ではなくcall(コール)と言うし、riunioni(リユニオーネ)よりもmeeting(ミーティング=会議)を使う、という具合。特にビジネスシーンでは、英語の言葉を使う頻度はどんどん上がっています。
少しでも多くのイタリア語を保存して語彙の衰退を阻止する取り組みと、ポリティカリー・コレクト、つまり政治的に正しい言葉を推進し、技術による言語の支配や目に見えない外国偏重主義を食い止めるための取り組みにイタリア政府とアルカディア・アカデミー(文芸団体)が着手したのは、今から数年前のこと。
子供の頃から私が身に着けてきた多くの言葉や成句、方言のことわざなどは、今や絶滅寸前です。その地方独自の成句というのは、単純な文法的ルールにおさまらないもの。物ごとや行動、感情といったものの意味と意義を言い表してきた長い歴史の結果として生まれたのが、一つ一つの言葉なのです。日常的に使っているうちに消えていく言葉もあれば、新語や造語、アメリカ語法が幅を利かせる新しい社会文化的背景に適応する言葉もあります。かつては存在しなかった「ブログ」「チャット」などのように、言葉を単純化すると同時に貧しくもするIT用語も然り。遠い昔にルーツを持ち、長い歳月の彼方へと消えてしまう方言はすぐれた知恵や大衆文化を映し出す言葉なのに、使う人がほとんどいなくなると、それらの言葉は失われ、忘れさられ、絶滅してしまうこともあるのです。
方言は、文化的伝統の中でとても重要な役割を果たすもの。自分のルーツというアイデンティティの一部であり、たどってきた旅路の名残と呼んでもいいでしょう。これらの方言が共通語に紛れて消えていく現象は、今の日常生活にそぐわなくなってしまった習慣や伝統が緩やかに廃れつつあることと無関係ではありません。また、古臭い感じがするという理由から死語同然になってしまう言葉もあります。けれども私たちが何をしてきたのか、何者なのか、どこから来たのか、かつてどんな風に暮らしていたのか、つまりライフスタイルや価値観、格言などを教えてくれるのは、言葉なのです。
というわけで、ジェノヴァのお国言葉による単語や成句をピックアップし、それぞれにイタリア語と英語の訳を添えてみました。
イタリア語には見られない「訛り」の存在はさておき、方言とイタリア語の違いを示す方法としては、これが代表的かつ効果的なやり方のようです。

※訳者注:以下、左から右へ、ジェノヴァの方言=イタリア語=英語=(日本語訳)の順に並んでいます。

Zena = Genova = Genoa(ジェノヴァ)
Mâ= mare = sea(海)
Caréga= sedia= chair(椅子)
Palanca = soldi= money(お金)
Ciassa = Piazza= square(広場)
Figêu = bambino= child(子ども)
Nu ghe semmu = Non ci siamo= We are not there literally(「私たちはそこにいない」が本来の意味。We are not doing well「うまくいかない」という意味で使われることもある)
Voeise ben nö costa ninte = Amare te stesso non costa nulla = Loving yourself costs nothing(自分を愛するのにお金はかからない)
Chi no sappa no lappa. = Chi non zappa non mangia. = Those who do not work do not eat.(働かざる者、食うべからず)
Chi attasa o menestron na votta, o no va ciù da Zena = Chi assaggia il minestrone una volta non va più via da Genova = Those who taste soup in Genoa do not leave the city anymore(ジェノヴァでスープを味わった者はこの街を離れない)

特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 職業翻訳、通訳、教師

生まれはイタリアですが、5ヶ国語が話せる「多文化人」です。米国、ブラジル、オーストラリア、フランス、イギリスで暮らし、仕事をした経験があります。イタリアと米国の国籍を持っていますが、私自身は世界市民だと思っています。教師や翻訳の仕事をしていない時は、イタリア料理を作ったり、ハイキングをしたり、世界各地を旅行したり…これまで80カ国を旅しましたが、その数は今も増え続けています!

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