• 2016.12.26
  • グロット―ポートランドのスピリチュアル・スポット
ポートランドを訪れる人の多くは、街の賑やかな中心地からほんの少しのところに、地元の人々がグロット(岩屋)と呼んでいる平和で静穏な聖域があることを知りません。このグロットは、正式にはアワー・レディ・ オブ・ソロー(Our Lady of Sorrows ―悲しみの聖母)と呼ばれる国立自然保護区で、カトリック教徒にとっての神聖な場所であると同時に植物園でもあり、大きな崖が上部と下部を分ける自然の仕切りになっています。観光客や宗教的巡礼者にとっての名所になる前、グロットは採石場でしたが、アンブローズ・メイヤー神父がこの土地は神聖な場所であるとして、神父の庇護のもと保護区となりました。
グロットの建造は崖の壁に洞窟が掘られた1923年に始まりました。その10年後、メイヤー神父がミケランジェロによるピエタ像の大理石でできたレプリカを洞窟内の祭壇に設置し、これが「グロットの聖母」として知られるようになりました。この像は現在、最も下の階の、駐車場から直結している美しい庭園の中にあります。この像のある庭園だけでもおよそ8ヘクタールもの大きさがあります。

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聖母マリアの像がある洞窟

グロットを訪れると、まずウェルカムセンターを通ります。センターには小さな美術館があり、庭園の目指すゴールやグロットの華々しい記録などが掲示されています。聖母マリアを祭る小さな礼拝堂に向かう道沿いにはイエス・キリストの人生を描写する像がところどころに置かれています。この小さな礼拝堂では毎日ミサが行われており、訪問者も礼拝者と同じように参列できます。庭園内のエレベーターを使って上の階に行くことができ、崖に沿って作られたこのエレベーターからは、周囲の山脈の素晴らしい景色を一望できます。上の階にはポートランドでも最大規模の緑地があります。
ツツジの花壇と自生の植物が生えている手入れの行き届いた小道を散策すれば、ポートランド市内でもとりわけリラックスしたひとときを過ごすことができます。この公園の一番の呼び物は瞑想の礼拝堂(Chapel of Meditation)と呼ばれる壁全面がガラス張りの小さな教会で、この建物はアメリカ北西部における現代建築の最高峰と考えられており、表彰もされました。この礼拝堂は崖の北側の壁に沿って建っていて、完全に透き通っているため、天気の良い日には中から辺り一体の素晴らしい景色を楽しむことができ、遠くはフッド山やワシントン州のセントヘレナ山まで見渡すことができます。

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グロットの入り口にある看板

グロットは街中の喧騒や日常から逃れるのにうってつけの場所ですが、それだけではなく、霊的なカウンセリングや宗教的な指針を与えたり、避難所として機能したりと、支援を必要とする人のためのセンターにもなっています。グロットは一年を通じて美しい場所ですが、特に12月と1月に開催される光の祭典の期間中が人気です。この時期には毎晩夕暮れから閉園までキリスト降誕の物語が舞台で公演されます。
50万個ものライトが灯されることから光の祭典と呼ばれていて、この祝祭が開催される期間中、庭園内では合唱やクラシックのコンサート、良き新年を願う宗教的な催しなど、多くのイベントが催されます。
キリスト降誕の物語に登場する聖母マリア、ヨセフ、そして羊飼いたちなどを演じるのは現実の人々です。降誕のシーンで、本物の赤ん坊が生まれたばかりのキリストを演じるクリスマスイブには多くの人が訪れます。そして、1月6日の晩は、3人のボランティア役者が、赤子のイエスに贈り物を持ってくる三賢人を演じることから、ポートランダーの間でも特に人気です。また、舞台には、羊、鶏、ロバ、雄牛、さらにはラクダまで、人になついている動物たちも登場するので、この時期のグロットは小さなふれあい動物園になります。これは子ども達にとっても、とても楽しいアトラクションになっています。

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グロットで上演されるキリストの降誕劇

グロットはキリスト教徒のメッカとして始まりました。しかし、壮観な光景を眺めることができる場所、そして平和と平穏の場所として、光の祭典の期間中のみならず年間を通して、あらゆる宗教や背景を持つ人々が訪れる場所になっています。

特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 職業翻訳者、編集者、教師

米国とイタリアに住んでおり、両国に深いルーツを持っています。広く世界を旅する中、日本で4ヶ月を過ごし、桜とたこ焼きに恋をしました。現在、世界中の友人からレシピを集め、料理の本を編集しています。

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