• 2018.03.12
  • 彫刻の保存・修復1
ほぼ何でも屋さんと化している私の様々な活動の中に、修復士という仕事もあります。
保存・修復の世界は、歴史ある絵画や彫刻、高価な美術品等に囲まれ、なおかつ触れることのできるきらびやかなイメージがあるが、実際は過酷で地味な仕事だと思う。しかもポルトガルの多くの保存・修復関係の会社は現場を作業場とするため、カビ臭い宮殿や、陰気臭い教会が自分の職場となり、長ければそれが一年以上続くのです。
私は一人で悶々とする作業が好きなので、むしろこの仕事は天職だと感じてますが、嫌な事は結構あります。
教会の屋根裏で一人きりになるとき。観光客がやまない部屋で質問攻めになりながら作業するとき。高い建物の上のポジションを任され、1日に何度も足場のハシゴを上らないといけないとき。広い敷地でトイレが遠いとき。残業で通路しか明かりが灯っていない真っ暗な宮殿を一人歩くとき。冬なのに雨具を身に着け、水を浴びながら作業を続けたときは流石に挫折しました。世界遺産だろうが国家遺産だろうが作業が早く終える事だけを考えています。


今回は、彫刻(木)の修復の基本的な作業を説明します。
ここで紹介するのは(3体)、ポルトガルの北Arcos de Valdevez にある教会、Igreja Martiz de Arcos de Valdevezのものです。




この教会は、スペイン軍に焼かれた寺院を17世紀に再建されました。聖サルバドルに捧げられた教会の内部は1690年から1770年にかけて、当時のバロック建築の特徴である金装飾に飾られ、ポルトガルタイルの床も素晴らしい作品となっています。


木材の彫刻の保存・修復で一番最悪なのが、使用する薬品の多さです。虫に食われているのでその駆除をする必要があります。木材があらわになっている部分には、筆で薬品を浸透させ、虫が食った穴からは丁寧に注射器で薬品を注入します。虫が生きてる場合を想定し、逃げないようにビニールで覆い、一週間放置しておきます。



彫刻は長い年月の間、祭壇の上におかれたままなので、埃をかぶり、ロウソクのロウがたれているものもあります。まずはブラシで埃を落としてあげ、硬くなったろうは手術用のメスなどで取り除きます。



今度は、何を使って汚れを落として行くかを判断するテストを行います。また薬品が使われるのですが、精製水に混ぜたアルコールならまだしも、アセトンやペトロール、劇薬を使う場合はガスマスクをしながらの作業になり、特に夏場は苦しいですし、ずっと顔につけてるには重たいので、結構疲れます。結果、つけないで作業する人も多いのですが、その場合定期的に新鮮な空気を吸いに外に出ないとひどい頭痛や吐き気と戦うことになります。私も数ヶ月間、ガソリンスタンドの匂いを嗅ぐだけで気持ち悪くなった経験があります。
各箇所・色の部分を薬品をつけた綿で擦り、綿にどれほど汚れが移っているか確認します。彫刻にダメージが少ないように一番弱い薬品から始めて行きますが、汚れが良く落ちても顔料も一緒に落ちてしまうものは避けることになります。
テストで使う薬品を判断したら、保存・修復で一番大事なクリーニングという作業を始められるのです。


<続きは、次回>

特派員

  • 太田めぐみ
  • 職業修復士、通訳、コーディネーター/Insitu(修復)、Kaminari-sama、ノバジカ、他

ポルトガル在住の保存修復士。主に、絵画(壁画)や金箔装飾を専門にし、ユネスコ世界遺産建築物や大統領邸の内部を手がける。シルバーコースト近くの村で、地域に根付いた田舎暮らしを満喫している。趣味は、土いじり。

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