モンスターウェーブはその名の通り、何十メートルもの高さのある、巨大なバケモノのような波のことです。
それは、ポルトガルのナザレでおこります。
ナザレの町は、長い海岸に面したのどかな漁師の町として有名な場所です。観光客だけでなく、ポルトガル人でも新鮮で豊富な魚介を食べに、この町を訪れます。
ナザレという名前の由来は、4世紀頃、イスラエルのナザレの聖職者により、スペインのメリダに黒い聖母マリア像が運ばれ、その像が8世紀頃この地に持ってこられたからだそうです。この聖母マリア像は、洞窟の中に保管され、そのおかげでポルトガルの様々な侵略を免れることになりました。
なお、12世紀には、この場所である奇跡が起こり、より一層、神聖な場所として認知されるようになります。その奇跡とは、ある騎士が、深い霧の中を狩をして鹿を追っている際、急に聖母マリアが現れたそうです。騎士は驚いて、馬の手綱引くのですが、なんとそこは崖っぷちで、騎士は幸運にもこうして命を救われました。現在ではこの地に非常に小さなチャペルが建っており、ナザレの観光スポットになっております。
ナザレの長い海岸では、カラフルなボートが浮かび、チェックのシャツの漁師が地引網を引き、7枚ものスカートを重ねた民族衣装の女性たちは、魚を干して干物を作り・・・というのは、昔の光景。今やナザレはサーファーが憧れる、モンスターウェーブの町として有名なのです。
もともとポルトガルは、サーフィンの世界大会が行われたり、エリセイラという地域が世界サーフリザーブとして、オーストラリア、カルフォルニアに続いて三番目に指定されたりと、サーフィンはメジャーなスポーツなのですが、このナザレのモンスターがポルトガル国内だけでなく、世界的にも知られるきっかけとなったのは、2011年にギャレット・マクナマラというサーファーが23.8メートルの史上初の巨大波乗りに成功し、ギネスに載ってからです。それから一気に脚光を浴びるようになり、今や波を見るのにベストスポットである灯台の場所には、モンスターウェーブの門まで建っています。
毎年、波の高い時期になると、ビッグウェーブ専門の馴染みのある顔ぶれが揃い、それぞれ記録を求めて、モンスターにチャレンジします。
去年の暮れは、ロドリーゴ・コーシャが24メートルの波乗りに成功し、マクナマラの記録が塗り替えられました。そしてギネス記録にはなってませんが、今年の1月には、ウーゴ・ボーというサーファーが、なんと高さ35メートルの波乗りに成功したそうです。その時の波は、通称「ビッグ・ママ」と呼ばれているそうです!
サーフィンは、スポーツの中で一番自然と向き合っているスポーツではないでしょうか。ボードに乗る技術は必要であっても、自身と自然(波)との駆け引きを楽しむものです。
しかし、同じサーフィンでも、モンスターウェーブに乗ることは、自分の死とも向き合うことになります。するとそれは自然との駆け引きではなく、自然と調和することが重要なのではと思うのです。
私のイメージですが、ビルのような波を滑り落ちているとき、そこはサーファーにとって生死を超えた時空であって、ごうごうと唸る波しぶきに囲まれていようと、物音一つしない「無」の瞬間なのではないでしょうか。
数少ないモンスターウェーブに乗ることのできた成功者は、きっと巨大な波よりも更に大きなものを達成しているのだと思うのです。