定年後の父にとって、毎年春になると新聞に掲載される叙勲受章者リストから、知り合いの名前を探すのが楽しみである。自らその中に自分の名前を見つけるまで、長生きしてくれて本当に良かった。 心より、おめでとうと言いたい。
私の母は、ミーハー精神の塊でして、晴れごとが大好きなチェキチェキな江戸っ子である。父が叙勲受章することになって、大騒はしゃぎ。その横で父はクールを装っている。
一体どのように情報が伝わるのか、受領することになったら、次から次へと記念品やお祝い品、関係の企業からパンフレットが送られて来る。証書を入れる額ならまだしも、菊の紋章が入った漆の筒、菊の紋章の壺、菊の紋章の金の盃、蒔絵、江戸切子のグラス、クリスタルの盾、菊の紋章が入りの様々な和菓子まで! しかもどれも高額である。
どの記念品を作ろうか、どのお祝い品を配ろうかとはしゃぐ母の横で父がムスッとし始めた。
「そんな事をするのなら、勲章を断る」と母を凍りつかせた。
それ以前に父は、自分の通う病院の看護師たちに、母が勲章受領の事を話したことを面白く思ってないらしい。
多少の照れはあるのだろうが、もともと父は全く欲がなく、目立つことも好きではない。社会人だった頃、うまくやることをせず、筋が通らないことにはたかがそれが上司相手でも首を縦に振らないタイプであった。海外赴任の時、そんな父に同行する母はそれなりに苦労した。なので父よ、これは祝うべきことなのだし、少し母を楽しませてやっておくれ。
勲章が父の元に届いた。思った以上に立派である。
そして母もお祝い品として、菊の紋章入りの日本酒とワインを準備した。これなら酒好きな父でも楽しめると思ったのだろう。
ところで、実は義父も勲章保有者(Orden del Mérito Civil)である。ポルトガルにあるCasa de España(スペイン人会のようなもの)での会長としての長年の功績を称えられ、スペイン国王から褒章を授与された。約10年前にリスボンにあるスペイン公邸での授賞式に招待されたのを思い出した。
考えてみれば、うちの子供達はどちらのおじいちゃんもメダルを持っていると言う意味では、稀なのかもしれない。
どうかおじいちゃんたちに、誇りを持ってもらいたい。