• 2025.02.06
  • リスボン日本語補習授業校50周年記念イベント

 今、補習授業校は設立当時とは大きく姿を変えています。第一に挙げられるのが、補習校に通う子供たちの属性の変化です。

 外務省の統計を見ると、近年、海外で生活する人が年々増加していることが分かります。2009年から2012年まで6万人台でしたが、2013年には7万人を超えて、2017年にはついに8万人を超えました。日本の海外生活者が多いということは、子供たちも増えているということで、外務省の調べでは、高校生以下の子供の数は、約24万人と言われています。また、補習授業校の数も海外生活者の数に平行して増えていきました。世界中に補習授業校が設立し始めた70年代初めには、世界に22校しかなかったのが、2019年には228校と、著しい増加がうかがえます。そのうちの72校がヨーロッパにある補習校で、リスボン日本語補習授業校はこの中の1つになります。
 補習授業校の設立当時の設置目的は、日本の子供たちが「帰国後に対応できる日本語力」を身につけることで、本来は日本に帰国する駐在家庭の子供の教育を目的としていました。しかし、現在の補習授業校には、駐在家庭、永住家庭、国際結婚家庭など、多様な家庭が集まっていることが確認できます。要するに、補習授業校に通う子供たちは、必ずしも日本への帰国を前提としていないことになります。現在、文科科学省の報告によると「保護者のいずれか、またはその両方とも外国人」という国際結婚家庭の子供が補習授業校全体で、44.8%にも達しているそうです。昔は、親の勤務に伴い海外に出た子供が多かったのが、近年では事情が変わり、海外で生まれ育ち、日本で生活したことのない子供など、その成育歴や家庭環境が多様になってきています。

 リスボン日本語補習授業校に関しては、20年以上前は国際結婚家庭を積極的には受け入れてませんでした。日本語力が不十分との理由で断られるケースや、入部できたとしても他の保護者に嫌味を言われ続けることもあったそうです。国際結婚家庭の子供たちは、日本からやってくる日本人駐在家庭の子供たちに遅れをとらぬよう、より努力する必要があり、それはもちろん家でのサポートが不可欠であることを意味します。ポルトガルでは共働きが基本ですし、限られた時間の中で日本語の読み書きを教えるのは困難な事です。結果、次第に勉強について行けない子供が辞めてしまうケースもありました。
2009年のギリシャ危機からポルトガルの財政赤字も目立つようになり、日本企業が徐々に撤退し、日本からの海外勤務者が少なくなったリスボンでは、日本語補習授業校の生徒が激減しました。リスボン日本語補習授業校存続の危機とささやかれた時期に、私の娘は(父親がスペイン人ですが)大歓迎で受け入れられたのです。それからは、娘のような国際結婚家庭の子供たちもどんどん増えて行き、現在は、在籍する子供の半数以上が日本以外の国で生まれ、日本語よりポルトガル語や英語といった多言語を得意とする子供たちで成り立っています。

 現在、世界の補習授業校では、子供たちの多様性に合わせて「日本語部」や「国際部」というクラスがあるそうです。日本語が弱い生徒を学年でなく、日本語力で分けて教育することは効率的な方法ではありますが、私は敢えて分けて教育するのではなく、共に学ぶ教育が必要だと思っています。むしろそれこそが、補習授業校のメリットだと思います。
 リスボン補習校の良さは、同じ環境の子供同士の学び合いや友情でしょう。ポルトガルに暮らしながら日本につながっているという共通性を核に、共に日本語を学ぶ経験を通して、基調なつながりが生まれています。グローバル社会の到来を目前にして、異なる家庭環境や言語環境、日本語力に違いがあっても子供たちが日本の言語や文化を共に学び、一緒に力をのばしていく授業こそがグローバル人材を育てる鍵となると思っています。リスボン補習授業校の子供たちは様々な言語や文化背景を持っており、日本語と他の言語、また多様な実体験をしていることは、彼らの強みです。
 したがって「日本語補習授業校」は、今までのように「日本に準じた学校」を目指すのではなく、日本につながっている共通性を核に、子供たちの多様性を活かした学び合いの場を築くことが求められていると考えます。異文化や考え方の違いで争いごとが起こる世の中だからこそ、異なるバックグラウンドを持つ仲間たちに囲まれて、様々な思考を理解できる人間を育てて欲しいです。多様な価値観は、これからの国際社会で生きていく上では大きなパワーになりうると信じています。





、、、在ポルトガル日本大使館、国際交流基金マドリード日本文化センター共催のもと、(一年遅れの)リスボン日本語補習授業校50周年記念イベントにて、卒業生・保護者代表として講演いたしました。講演内容を考える上で、教育や日本語補習授業校について考えるきっかけが出来たことは非常に良かったです。ましてや自分のリスボン日本語補習授業校に対する愛が強すぎて、10分の講演では到底語り切れない熱い思いがよみがえりました。伝えたいことがやまほどあり、頭の中で整理できたら、この場を借りて投稿したいと思っています。

特派員

  • 太田めぐみ
  • 職業修復士、通訳、コーディネーター/Insitu(修復)、Kaminari-sama、ノバジカ、他

ポルトガル在住の保存修復士。主に、絵画(壁画)や金箔装飾を専門にし、ユネスコ世界遺産建築物や大統領邸の内部を手がける。シルバーコースト近くの村で、地域に根付いた田舎暮らしを満喫している。趣味は、土いじり。

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