• 2015.11.06
  • 日本でも開催されている『小プラド美術館』
マドリードにあるプラド美術館は、スペイン王家が宮廷を飾るべく収集した作品を基に創設されました。そのため、各時代を代表する画家達による華やかな大作が目白押しです。しかし、歴代王室関係者の肖像画に戦争画、神話や宗教などをテーマとした大作に四六時中囲まれると、王侯貴族とは言え、飽食による消化不良は避けられません。そこで、一人で静かに楽しみ、癒されるような小品も収集していました。所蔵作品は増え続け、現在では油彩だけでも7600点、版画やデッサン、彫刻、装飾品等を含めると2万点以上の膨大なコレクションになりました。

その鑑賞となると、まずスペイン3大巨匠と称される、エル・グレコ*1、ベラスケス、ゴヤなどの大作や、これまた充実したイタリアやフランドル絵画のコレクションに目を奪われますが、小さくても画家達が丹精込めた珠玉の作品もひっそりと飾られています。宮廷や貴族の邸宅、修道院や教会の私室で密やかに楽しまれていた宗教画、風景画、美人画や静物画など、手に取って鑑賞すれば画家の息遣いを間近に感じられるような作品群にもかかわらず、残念なことに、足を止める人は多くありませんでした。

プラド美術館は、二年前に、こうした小品に光を当てる特別展を企画しました。題して『La belleza encerrada』、直訳すると『捕らわれた美』でしょうか。小さな空間に閉じ込められた美というような意味です。大きな空間を小部屋に区切ることで、親密な雰囲気を作り出し、館内に『小プラド美術館』を出現させました。

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2013年マドリードで開催時の展覧会目録。           今回の出品作フォルトゥーニ《日本式広間にいる画家の子供たち》
手のひらサイズの小品です。                その一部分がプラド美術館のチケットに使われています。

マドリードでの約半年の開催は大好評を博し、昨年は、バルセロナでも同じ半年の開催となりました。今年は、さらにその特別バージョンが日本にやってきました。*2展覧会場として選ばれたのは、まさしくこの企画にうってつけ、小さく区切られた空間で構成された日本初のオフィスビル。黙っていない女子行員が勤務していた銀行の臨店班がある、あの建物です。ドラマでは銀行の本社屋でしたが、実際は美術館で、今年開館5周年を迎えるとのこと。マドリードに立ち寄るスペインツアーに参加すれば、プラド美術館訪問は100%旅程に組まれていますが、見学は通常1時間長くても2時間程度。今回紹介している小品まで鑑賞する時間的余裕はとてもありません。見方によって、今年の開催は、日本でしか経験できないプラド美術館と言えるかもしれませんね。

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ベラスケス作、印象派の先駆けと言われる            東京で開催中の展覧会カタログ。
《ローマ、ヴィラ・メディチの庭園》              ベラスケスの作品が表紙に使用されています。
個人的に好きな作品です。プラド美術館HPより


<註>
*1.クレタ島生まれのギリシャ人ですが、スペインのトレドで活躍したのでスペイン派の巨匠と呼ばれています。
*2.『プラド美術館展-スペイン宮廷美への情熱』於:東京丸の内・三菱一号館美術館 会期:2015年10月10日~2016年1月31日



特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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