• 2016.01.18
  • アンダルシアの鰻屋さん
今年五月に、スペインのマグロ漁についてご紹介しました。今回は鰻のお話しを。
スペインの人々も煮込みや揚げ物など、様々な調理法で鰻(anguila)を食べますが、どちらかと言うと限定郷土料理で、決して全国区ではありません。しかし、全国津々浦々どこでも、誰でも知っているのがシラスウナギ(angula)料理です。「アングーラス・ア・ラ・ビルバイーナ(ビルバオ風鰻の稚魚)」簡単に言うと最近日本でも知られ始めた「アヒージョ」と呼ばれるニンニク・唐辛子炒めです。

シラスウナギは、ヨーロッパから数千キロ離れた大西洋はサルガッソの海で生まれ、1cm程度の小さな体で大洋を旅しながら4~5cmのシラスウナギまで成長した頃、親が育った川へ到着し、そこで成魚になり、再び数千キロの大旅行をして故郷で産卵するという、なんとも壮大な人生(鰻生)ドラマです。このドラマの本編がようやく始まる川へ到着したての稚魚を捕獲して食べてしまうのですから、後ろめたいと言うか残酷な話ですね。しかしスペインの伝統料理、特にクリスマス、年末年始には欠かせない料理でした。と、今では過去形になってしまいました。

主な原因は乱獲、そして環境汚染、気候変動などで捕獲量が激減した結果、絶滅危惧種として保護対象になり当然ながら価格が高騰し、とても庶民の口に入る食品ではなくなってしまったからです。 ちなみスペイン北部のアストゥリアス州では、先月11月04日、漁解禁後の初競りでのご祝儀相場ではありますが、1kgあたり6230ユーロ(約80万円)という値段で取引されました(*)。 通常一人前は100gですからレストランでの提供価格は一皿10万円以上になってしまいます。

003_160115_1 写真1 鰯ならぬ“ててかむ”シラスウナギ、ピチピチはねていました。50年程前までは食べる習慣が無かったので豚の餌だったようです。台湾で以前はアヒルの餌にしていたのと同じですね。

そこで、“がんもどき”とか“蟹カマ”で鍛え上げた日本の誇る“もどき食品”と言える製造技術により本物そっくりのシラスウナギが登場しました。但し芥子粒のような“目”が無いのと、本物では微妙に感じるシャッリっとした骨の食感が無いのは当然ですね。味の方は、やはり“なんちゃって”ですが、100分の1の値段で雰囲気は味わえます。

003_160115_2 写真2 “なんちゃってシラスウナギ”のアヒージョ、鍋焼きうどん用の小鍋を転用。


自慢話で恐縮ですが、運よく今回の出張で本物を味わうことが出来ました。宝くじが当たったわけではありません。スペイン南西部アンダルシア州のカディス県を流れて大西洋にそそぐグアダルキビール川の河口近くにあるトレブヘーナ村(Trebujena)を訪れる機会があったのです。ここは80年代前半に年40トンもの水揚げがあったシラスウナギの名産地です。この村に“シラスウナギの王様 (Rey de las Angulas)”と呼ばれる居酒屋レストラン “エル・リトリ(El Litri)”があります。

003_160115_3 写真3 店に飾ってある“シラスウナギの王様 EL REY DE LAS ANGULAS ”先代のポートレート。


実は2009年には漁獲量が300キロまでに激減し、2010年には、アンダルシア州政府が10年間の禁漁を決定しました。とは言っても、スペインの他の州では制限つきで漁が許されているので、この店でもシラスウナギの料理が以前通り提供されます(出自は内緒だそうです)。今回は一人前100gをマドリードやバルセロナなどの大都会でしたら考えられないくらいの値段で頂きました。それこそ20数年ぶりに再会した珍味でした。

003_160115_4 写真4 一人前100グラム、約300匹の稚魚は入っている計算になります。成魚になったとしたら日本人一人平均鰻丼一生分の鰻量かもしれません。全体が白いのは海から遡上して間もないシラスとのことです。川の滞在時間が長くなると背の方から灰色がかってくるとか。金気を嫌うので土鍋で調理、木のフォークで頂きます。


003_160115_5 写真5 一匹6cm、多分0.3g程度

ちなみに、この村の郊外に大規模なロケ・セットを建設して撮影されたのが1987年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督作品“太陽の帝国”の屋外シーンです。その際に監督はじめ撮影スタッフもシラスウナギのニンニク・唐辛子炒めを堪能したそうです。同じ調理法ですが伝統のある“ビルバオ風”に対抗して“トレブヘーナ風”と呼んでます。



(*) http://www.elcomercio.es/asturias/oriente/201511/04/precio-historico-ribadesella-angula-20151104120330.html


特派員

  • 山田 進
  • 年齢寅( とら )
  • 性別男性
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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