先頭は各牛体重1000kg、合計2牛力の重量級車両です。
羊達の移動は春と秋、年に二回行われるのですが、大都会を混乱に陥れるのは一度だけで許してあげましょう、しかし私たちのことは忘れないでね、という事でこの伝統的牧畜形態を都会人に知ってもらう意味もあり『Fiesta de la Trashumancia-移牧のお祭り』と名付けて恒例の年中行事になりました。移牧とは聞きなれない言葉ですが、旅の先には定住地があるので、遊牧とは区別されます。
山羊も一緒に大行進。
ご一行様の総責任者、都で市長とご面会なので黒い帽子でダンディーに決めてます。
昔はスペインの経済を支えていた大きな柱の一つが羊毛産業でした。長い間独占的に飼育されていたのが 羊の中でも特に品質の良い毛をもつイベリア半島原産の『メリノ種』です。白くて極細、中空の縮んだ繊維が巻き合って弾力性や保温・保湿にすぐれ、風合いも素晴らしい一級素材で、加工品はヨーロッパの王侯貴族に珍重されていたそうです。
そのメリノ羊は輸出禁制品だったのですが、19世紀初頭、フランスのナポレオン皇帝に蹂躙されていたスペインが立ち上がって起こした独立戦争の際、手助けをしてくれた英国へのお礼として女王陛下へ献上され、それがオーストラリアへと渡り、彼の地の羊毛王国の礎になったとも言われています。
随分と前から大切にされた羊毛産業、賢王と称されるカスティージャ国王Alfonso10世は1273年、春と秋に牧草を求めて移動する綿羊の通り道を『Cañada Real (王立羊街道) 』 として特別保護する王令を発布しました。このお墨付きのおかげで羊の群れは他人の土地でも自由に往来が出来たとか。
また1418年にはマドリード市当局と羊飼い組合との話し合いで、お羊様ご一行の通行料を当時の通貨で50マラべティと定めました。ちなみ1610年、ドン・キホーテの作者セルバンテスの時代には鶏一羽の値段が55マラベディだったそうです。このマドリード通行許可契約は現在でも守られていて、今回も行列は市役所前で小休止して市長さんへ通行料支払いの儀式が執り行われました。ちなみに来年2018年は契約成立600周年記念式典が盛大に開催される予定です。
マドリード市長(金髪のおばさま)が羊組合長(黒帽)から通行料を徴収中。
最近では衰退している羊の長距離移動ですが、意外なところで自然環境改善にも役に立っていまして、1000頭の羊の一日の排泄物の総量はなんと3トン余り、その中には5百万個の植物の種も含まれているとか。道すがら所かまわず『肥料』を撒きながら歩くので、植物の生長を促してそれらが大気中のCO2を土中に固定し、結局温室効果ガス減少にも役立つ理屈です。このように地球温暖化に対抗してくれる健気な羊さん達ですが、まかり間違ってゴルフ場などを通ってしまうと、その後の惨状は想像に難くありません。
最近、日本のマスコミにも取り上げられるスペインの話題がどうも“きな臭い”ものが多いので今回は対抗して“田園臭い”話題でした。