スペイン語ではDIETA MEDITERRÁNEAといいます。
はじめの言葉DIETA ダイエットと訳します。ある意味では食事の仕方のことで日本で喧伝されているダイエット=痩身法とはちょっと違います。もちろん痩せるためのダイエットもあれば太るためのダイエットもありますがこの場合には特定の地域で長らく実践されてきた食事を中心とした暮らし方の意味です。
人間が生きていくために必要な栄養素の取り入れ方で、材料の取得から始まって、その調理、保存法、家族での日々の食事、晴れの日にご近所、親類縁者などとその機会を分かち合う会食など、食事を中心とした一つの文化の捉え方で、そこには口に入れるものだけでなく、食器やテーブルのしつらえ、食後の散歩やシエスタ・タイム、はては楽器を奏で踊り楽しむ宴までが含まれます。
そして次のMEDITERRÁNEO。こちらを地中海と訳して『地中海式ダイエット』と言われますが元来このMEDITERRÁEOに海の意味はありません。ラテン語起源の言葉で『陸地の中心』ということです。そこで陸に囲まれた真ん中にある海という位置関係からMar(海、英語でsea)をつけてMar Mediterráneoとして地中海という言葉が使われるようになりました。
このDIETAと MEDITERRÁNEAを合体し直訳すると『内陸式食事法』となりますが、それでは何だかチンプンカンプンですし、海の無い内陸地域での料理文化という理解では『四川料理』や『ケンタッキー料理』、『栃木料理』をそう呼んでも問題ないわけですよね。
・・・と言葉の揚げ足取りはさておいて、ここはひとまず市民権を得た『地中海式ダイエット』と素直に書きましょう。この地中海を取り囲む国々における食を中心とした生活様式が優れて健康的であるとの理由でユネスコの無形文化遺産にも登録されました。それが2013年のことですが、なんと2000年以上昔の古代ギリシャで医学の祖として現在までお医者様の模範とされているヒポクラテスがすでに、『あなたが口に入れる食べ物こそ薬であるべきであり、体を健康に保つ薬とはつまり食事に他ならない。』と薬食同源を看破して地中海式ダイエットの礎を提唱していました。
この食事方法、いくつかのポイントがありますが、まず何といってもオリーブ・オイルが主役でしょう。先日、ジェノバ特派員のパトリツィア・マルゲリータさんからリグーリア産の素晴らしいオリーブ・オイルのお話を伺いしました。多くの優れた性質をもつオリーブ・オイルがこのダイエットの基本になります。若者ぶったおやじの酔狂で言わせてもらえば『エコでヘルシー、サステナブルなスタイリッシュ・ダイエットのメインアイテム?』
ところで、日本のご家庭で使われている調理油は、サラダ油、てんぷら油、ごま油などで、原材料が菜種、大豆、胡麻、ひまわり、亜麻、トウモロコシや落花生などほとんどが植物の種から抽出されたものです。ところが オリーブ・オイルは種ではなくその果実を絞った、いわゆるオリーブ果汁ともいえるもので、その健康効果についてはすでに広く知られていますよね。
このオリーブとそのオイルは、スペインの代表的農産物の一つであり、生産量も世界一を誇っていますので、ユネスコ無形文化遺産登録の旗振り役を務めたのがスペインなのも“さもありなん”。そしてその中心人物が『地中海式ダイエット事典』を著したスペインの碩学Juan Manuel Ruíz Liso医学博士です。地域住民の食生活習慣が健康に及ぼす影響を研究して、『地中海式ダイエット(生活様式)』に注目、スペインの第一人者として、同じくユネスコ無形文化遺産に登録された『和食』との連携にもご尽力されていらっしゃいます。
スペイン産エクストラ・バージン・オリーブ・オイル
『地中海式ダイエット事典・辞典』
Juan Manuel Ruíz Liso 博士
蛇足とは存じますが、もう一種類、果実を絞った植物性油があります。アブラヤシが原料のパーム油です。日本での消費量は菜種油に次いで第二位(*)、国民一人当たりにすると一年で5kgも使用しているそうです。“うちの台所にはパーム油なんてないわ!”と思いきや、ポテトチップ、カップラーメン、カレールー、菓子パンからアイスクリームまでに使用され、石鹸や洗剤にも使われていてとても身近な存在なんですね。
(*)パーム油、8割はアブラヤシの果肉を絞ったパーム油で2割程度は種子からとったパーム核油。
とここまで、言葉遊びが過ぎて、本題の『地中海式ダイエット』まで書ききれなかったのでまたの機会にご報告させていただきます。