やんごとなき“おまる”|山田 進|ナレッジワールドネットワーク|アクティビティ|ナレッジキャピタル

  • 2019.10.30
  • やんごとなき“おまる”
スペインが誇るプラド美術館、今年は開館200周年を記念して多くの特別展や関連行事が現在進行している中、今回ご紹介するのは一寸変った『国王陛下御休所(おやすみどころ)展』です。


展覧会パンフレット
 
1819年スペイン国王フェルナンド七世の命によって開館の運びとなったこの美術館、1828年に陛下は館内にご自身専用のプライベート・ルームを作らせました。そして陛下御逝去後も1865年までは代々の王室専用のご休息用でした。その後一般公開の運びとなりましたが、1901年まで内装はほとんど原型をとどめていたとのことです。拝見すると壁面は陛下の親類縁者の肖像画で埋め尽くされていたようですね。


ご休憩室1834年当時の内部の模様。右下手前の壁にはゴヤが描いた王室全員集合図『カルロス四世家族』が見て取れます。この大作は現在近くのメインホールに展示されています。


『カルロス四世家族(部分)』皇太子時代のフェルナンド殿下のお姿も描かれています。

ところで今回の企画の“できる限り史実に則り忠実に再現”という趣旨から、なんと恐れ多くも休憩室の次の間に設えられていた陛下と王妃専用トイレまで復元展示の運びと相成りました。立派な家具というかトイレは、マホガニー、松、ブロンズ、絹、ビロードを使用した王家にふさわしい絢爛豪華な意匠の逸品です。休憩室と廊下の間にある狭い空間にぴったり収まるように特注されたもので、当時の王室御用達家具工房の腕利き指物師アンヘル・マエッソ・ゴンサレス(Ángel Maeso González)作と製作者名まで明らかになっている氏素性の確かなトイレです。


復元された内装西壁部分。左端にトイレの入り口が見えます。


こちらが件のやんごとなき御厠家具。

それと同時に陛下ご夫妻が実際にご使用になった由緒正しい“おまる”も展示されています。当時の王妃、ポルトガルのからお輿入れした、マリア・イサベル・デ・ブラガンサ妃(María Isabel de Braganza)が自らマドリードのモンクロア王立製陶所に制作させたもので、男性仕様、つまり国王陛下用、女性仕様、つまり王妃様用と二種類あります。

戸棚の中におまる二種、向かって右にあるのが男性用、左が女性用。


モンクロア窯謹製白磁金縁柄付大鉢風おまる。


モンクロア窯謹製白磁金縁船形グレイビーボートまたはカレーポット風尿瓶。

ちなみに女性用はプラド美術館のHPでは“女性用尿瓶またはブルダルー(Bourdaloue)” と記述されています。このブルダルーという言葉は、17世紀フランスのイエズス会の説教師のお名前 ルイ・ブルダルー(Luis Bourdaloue)からきているそうです。

彼の素晴らしい説教というか講話は毎回2時間以上続くので、安易に席を立てない教会前列で拝聴しているご婦人方は念のためこのブルダルー説教用携帯トイレを持参して長丁場に備えたとか。その説教をしていた場所がパリのノートル・ダム・ド・ロレット教会でした。師の没後120年ほどたってからの1824年に教会周辺のアクセスを容易にするために開かれた新しい通りの名前に選ばれたのがこれまたブルダルー。


その後、このブルダルー通りにあった洋菓子店の職人さんが1850年頃考案した“洋梨タルト”に店がつけた名前がブルダルー、聖職者に敬意を払ったのか、深い意味も無く単に店のある通りの名前を使ったのは定かでありません。 そのタルト・ブルダルー(Tarte Bourdaloue)、アーモンドクリームと洋梨を甘く煮たコンポートを使った秋の定番タルトとして今でも親しまれているそうです。
今回はマドリードからパリまで飛んで、少々尾籠なお話になってしまいました。あしからずご容赦ください。

画像は許可を頂き、プラド美術館HPと展覧会パンフレットからお借りしました。

『陛下ご休憩室展』 
『EL GABINETE DE DESCANSO DE SUS MAJESTADES』
『THEIR MAJESTIES’RETIRING ROOM 』
会場 国立プラド美術館・マドリード
会期 2019年4月9日~2019年11月24日

プラド美術館 当展覧会紹介HP
https://www.museodelprado.es/en/whats-on/exhibition/their-majesties-retiring-room/2ce5cb02-2602-ea59-3deb-f9e65cbd8c5d

特派員

  • 山田 進
  • 年齢寅( とら )
  • 性別男性
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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