• 2020.10.14
  • 高値更新
今年2月、スペイン産の生ハム一本に11881.3ユーロ 日本円で142万9千円という値段がついて、ギネスブックに世界一高価な生ハムと認定されました。生産者はスペインの南西部アンダルシア州ウエルバ県コルテコンセプシオン村(*)にある“SIERRA MAYOR JABUGO ”社です。
HP:https://sierramayorjabugo.com/
ギネス認定の記事。
https://www.guinnessworldrecords.com/world-records/most-expensive-leg-of-ham-commercially-available


2020年ギネス認定記念ラベル付き生ハム一本(日本で言う原木)


SIERRA MAYOR の豚君にドングリ愛の想いをよせて・・・

 2年前この特派員報告の記事『スペインの生ハム』の中で 「2016年ギネスブック登録の世界一高価なハムのお値段は一本4100ユーロ、日本円に換算して約53万円」とご紹介したその記録が大幅に更新されたことになります。ちなみに生産者は上記と同じウエルバ県内のハブーゴ村にある“DEHESA MALADÚA”社です。
HP:https://www.dehesamaladua.bio/


2016年度ギネス世界最高値認定生ハム。

 これらはjamón de bellota100%ibérico/ 100%純血イベリコ豚ドングリ飼育ハム,と呼ばれて、スペインの生ハムのなかでも極撰、別格、最上級のランクです。ところで以前日本でも輸入物の食品を国産と称して販売するなど話題になった食品産地偽装ですが、同様の問題の解決法の一つとしてEU欧州連合には産地と名称を保護する目的でお墨付きとしての認証制度があります。その制度でスペインのブランド生ハムも
『PGI: Protected Geographical Indication地理的表示保護認証』や
『PDO: Protected Designation of Origin 原産地呼称保護認証』を
頂いてその出自を保証されています。
図1中で右手に示すのは白豚の生ハムPGI認定生産地2か所と、白豚生ハムPDO認定生産地が1か所、左手はイベリコ豚の生ハムPDO認定生産地の4か所です。


 この地図を見ると左側のイベリコ豚PDOハブーゴがとても広い範囲に広がっていますが、この場合は豚の飼育地が必ずしも加工地内とは限りません。ちなみにハブーゴ認証は加工地が図2のウエルバ県北部に限られます。上記二つのギネス最高値認定生ハムはどちらもPDOハブーゴで、飼育、加工もほとんど同一地域内で行われています。黒のハブーゴ村と赤のコルテコンセプシオン村との間はわずか30km程度のお隣同士。


ハブーゴ加工指定地域。

(*)スペインの地方自治制度には日本でいうところの市町村という区別がなくすべてmunicipio(基礎自治体)と呼ばれています。ハブーコは人口が2250人、コルテコンセプシオンは548人なので理解しやすい呼び方で両方とも“村”としました。

 この人気上昇中のイベリコ豚、6種類の亜種とも言うべき分類がありそれぞれの特徴があります。
今年ギネスに認定された“SIERRA MAYOR JABUGO”社の生ハムはランピーニョ種の豚から作られました。この種類はイベリコ豚全体の1.01% ととても希少です。毛が少ないのでこのLampiño、毛の少ない、無毛の、という意味の名前がついてます。色は黒系で小型、短足、大きく垂れた耳、長い鼻先、額の横じわなどの特徴があり特に筋肉にさし(脂肪交雑)が入りやすいのも他種との違いとされています。


ランピーニョ種の豚 MAPA(農業・水産・食料省のHPより)

2016年のギネス認定“DEHESA MALADÚA”社の生ハムはマンチャード・デ・ハブーゴ種です。この種も0.07%と負けず劣らずの希少価値です。通常イベリコ豚は黒豚で蹄も黒(パタ・ネグラ)が特徴と思われがちですが、こちらは茶色で不規則な黒い斑点があり、蹄も白くて期待を見事に裏切ってくれます。飼育地域はハブーゴ村近辺のアラセーナ山地に限られているとか。


マンチャード・デ・ハブーゴ種の豚です。MAPA(農業・水産・食料省のHPより)

ちなみに一番多い種類は多色系のレティント種Retinto で全体の 87.2%
次が黒系のエントレペラード種 Entrepelado で10.47%
希少種では多色系のトルビスカル種Torbiscal 1.24%
ほとんど絶滅危惧種の多色系ルビオ・アンダルス Rubio Andaluz(Dorado Gaditano)種0.01%
と、前述の2種とで合計6種類になります。

スペインでもこれらの種類まで気にするイベリコおたくは関係者以外ほとんど絶滅危惧種かもしれません。ちなみに門外漢である私自身が毎朝食べる生ハムは写真6.でご紹介する薄切りパック80g 2ユーロ、または血圧のことも考えて50g1ユーロで25%の減塩タイプ。バゲット・パンをトーストしてオリーブ・オイルとトマト・ペーストを塗りハムを載せ、お手軽バージョンのパン・コン・トマテにして頂きます。


普段使いの生ハムパック。


このドングリ飼育イベリコ豚に関して興味をお持ちの方はナレッジワールドネットワークで 2018年11月09日に公開された記事もご参照ください。
https://kc-i.jp/activity/kwn/yamada_s/20181109/

 号外
2020年8月6日付 政府公報で農林水産食料省は『2020年度スペイン生ハムコンクール』の受賞者を発表しました。このコンクールはスペインの食品を国内外に知らしめる宣伝活動の一環として今年で第三回を迎えました。

ハモン・ベジョータ・イベリコ部門最優秀賞
“Juan Manuel Hernández 2016年物” DOPを持つサラマンカ県のGuijuelo市” Juan Manuel Hernández 株式会社“の製品です。
同社HPhttps://www.jamonesjuanmanuel.com/
素晴らしい画像でイベリコ豚の飼育環境やハム製造工程などが紹介されています。

ハモン・セラーノ部門最優秀賞
“Serrano Reserva Escámez”EUの TSG:伝統的特産品保障認定を獲得しているムルシア県のBullas市、”Hermanos Escámez Sánchez有限会社“の製品です。同社HP http://www.embutidosescamez.com/ では
受賞の報告と共に、当社の多岐にわたる豚肉加工品も紹介されています。ちなみに今回の受賞ハムは一本買い(8kg~9kg)で84.99ユーロ、約一万円で販売しています。
この『TSG:Traditional Speciality Guaranteed伝統特産品保障』では原産地や地理的表示ではなく“ハモン・セラーノ”という名称をEUが保証するものです。ここでの伝統とは30年以上とのことです。

ついでに・・・
一本買いをなされた際には同じハムでも部位による食感や触感(手でつまんで食べるとおいしい)、また味の違いにお気づきになると思います。
①MAZA/マサ:脚の内側で一番肉が多く、脂分が多い柔らかい部分です。
②CONTRAMAZA/コントラマサ:マサに隣り合う部分で熟成度が高く硬めです。
③PUNTA/プンタ:蹄の反対側の先で脂分が多く味も濃い部分です。
④BABILLA/バビージャ:マサの反対側に位置し脚の前部にあたりマサと比べで肉量が少ない部分です
⑤JARRETE/ハレーテ:脛骨と腓骨のある部分で肉は硬めなので角切り(TACO)に向いています。
⑥CAÑA/カーニャ:蹄に近く一番細い部分でハレーテと同様角切りに最適です。

残った骨からは独特の出汁が取れますので多くのスペイン煮込料理には欠かせない材料です。皮の部分は中華料理の鶏油(チーユ)同様、脂を抽出して調味油にするとか豚皮揚げにしておつまみに利用されています。しかしさすがに蹄部分は食用には向かないでしょう。


生ハムの部位(今年のギネス認定ハムを例にしました)

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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