• 2020.10.27
  • 世界観光の日
 世界中で多くの活動が厳しい現実に直面している中で特に観光業は“不要とは言えないが不急ではある”との判断で大きな打撃を受けています。観光大国と呼ばれ年間外国人訪問者数が国民総数を上回るほどインバウンド観光に依存してきたスペインの観光業も壊滅状態の6ヶ月でした。

日本ではトラベル、Eatやイベントなど一連のGO-TOキャンペーンが始動して少なくとも国内の観光需要復活の兆しが見えてきたようですね。しかしスペインでは新たに感染拡大が始まり予断を許しません。観光関係事業も未だ出口が見えず、当然のことながら観光に深く関わりのある芸術・芸能などの文化活動も大変な状況で美術館関係やフラメンコ業界なども厳しい現実に晒されています。

マドリードには21軒の“タブラオ”と呼ばれるフラメンコが鑑賞できる劇場、居酒屋、レストランがありますが休業状態、当然出演者も仕事が無くなりました。またマドリードに滞在する旅程の日本からのツアーには必ずと言って程含まれていたのが人気スポットのプラド美術館、こちらはようやく一部開館にこぎつけましたが、コロナ以前の盛況には程遠い入館者数です。

そこで芸術・芸能など文化の灯を絶やさず、国境を越えて世界の相互理解に寄与している観光産業に貢献したいという思いからマドリード・タブラオ・フラメンコ協会とプラド美術館が共同で企画したプロモーション・ビデオが9月27日という観光業界にとって重要な日に公開されました。この日はマドリードに本部を置く国連世界観光機関(UNWTO)が1980年に制定した”世界観光の日/World Tourism Day”なのです。


プラド美術館の玉座の間ともいえるベラスケスの部屋に集合した出演者達。

日本の能、歌舞伎と同じくユネスコ無形文化遺産に登録されたスペインを代表する芸能であるフラメンコがプラド美術館の至宝とも言われる絵画が展示されている空間で披露されています。独特の衣装で華やかに繰り広げられる通常の雰囲気とは違って出演者の衣装は黒か白のモノトーン、踊りは絵画にインスピレーションを受けた斬新な振り付けでその雰囲気をよく表現していると思います。
エンドロールには
『En defensa de la cultura como vínculo que supera todas las fronteras.』
『Culture as a bond that overcomes all borders』
『全ての国境をつなぐ絆としての文化を保護するために』
とあります。
https://www.museodelprado.es/actualidad/videos
プラド美術館HPより


https://youtu.be/03PBqFeJ8I0
の動画をご視聴ください。

動画撮影場所案内図

内容を簡単に説明しますと、
1. 00:00~0:22 (案内図で9番の部屋)
オープニングはプラド美術館の檜舞台、ベラスケスの作品が展示されているメイン・ホール(Sala Basilical)で彼の最高傑作と言われる『女官達』や他の作品が並ぶ前で出演者全員集合。ここから始まる動画全編に流れる曲はセビジャーナというスペイン南西に位置するアンダルシア地方、とくにセビリア周辺の民謡で曲名は『Maestros』です。カンテ(歌)は列の最後に現れる黒服の女性 María Mezcleさん、ご本人が作詞、作曲も担当しています。

2. 00:23~00:54 (案内図で12番の部屋)
セビリア生まれの画家ムリーリョが描いた『ロス・べネラブレスの無原罪の御宿り』を中心に左手が『小鳥のいる聖家族』右側には『聖アンドレスの殉教』、ここで素晴らしいマンティージャ(ショール)捌きを披露する踊り手はManuel Liñánさん。

3. 00:55~01:05 (案内図で1番の部屋)
上半身裸の男性、バルセロナ生まれの35歳Jesús Carmonaさん。プラドの必見10作品の一つとも称されるフラメンコ(この場合はフランドル地方の意味)の画家ファン・デル・ウェイデン作『十字架降下』の前で踊る姿はどうしても後のキリストのお姿と見比べてしまいます。 

4. 01:06~01:25 (案内図で9番の部屋)
ベラスケスの描いた王妃『マリアナ・デ・アウストゥリア』の御前でスペイン舞踊を披露するのはCristina Cazorlaさん。肖像画の衣装を彷彿とさせるいで立ちで優美にまた快活に踊る姿は、時代は若干違いますが、ゴヤが描いたタペストリーの下絵の世界を思わせます。

5. 01:26~01.40 (案内図で1番の部屋)
 3.の場面の再登場です。両腕の表現なども後で両脇をささえられているキリストの腕を彷彿とさせます。

6.01:41~02:08 (案内図で11番の場所)
ルーベンス作『サン・ホルヘとドラゴンの闘い』を前にしてEduardo Guerreroさんは即座に“彼は私だ、私は戦う人間だ”と直感して黒い衣装で踊る自分が見えたそうです。

7.02:09~02:32 (案内図で4番の部屋)
エル・グレコの三作、左から『キリストの復活』、『受胎告知』と『五旬節(聖霊降臨)』の前でフラメンコの重要な伴奏楽器でもあるカスタネットの妙技を見せ、聴かせてくれるのは、このプロジェクトの監督を務めたAntonio Najarroさんです。

8. 02:33~03:02 (案内図で13番の場所)
カスタネットと並んでフラメンコではとても重要な伴奏はサパテオまたはサパテアードと呼ばれるタップ技術です。その精華を披露してくれるのはOlga Pericetさん。後に掛かっているのはルーベンスの『三美神』、そしてルーベンスとゴヤが同じテーマ、ちょっと怖い『我が子を食らうサトゥルヌス』で競作しています。


9. 03:04~03:35 (案内図で9番の部屋)
オープニングの舞台に戻って再び全員でフィナーレです。最後のきめのポーズはソーシャル・ディスタンスが取れないのでお決まりのマスク着用です。

意外にしっくり調和する絵画とフラメンコの取り合わせ、コロナのおかげで実現したいかにもスペイン的な動画をお楽しみいただけましたでしょうか。 

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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