• 2021.05.20
  • マドリード、5月2日
 マドリードの天気について
≪Madrid, nueve meses de invierno y tres de infierno.≫
≪マドリード、9ヵ月の冬と3ヵ月の地獄。≫
と言われています。
高原性で寒暖差の激しいマドリードの気候の特徴を誇張して表現したことわざですが、確かに夏には気温が摂氏50度以上まで上るのも珍しくありませんし、冬にはこんな景色にもなります。


夏のマドリード。


冬のマドリード。

 とはいえ前回の記事でお知らせした通り5月のマドリードは短い春を満喫できる貴重な端境期、鳥はさえずり木々は緑を増し、清涼ながらまったりとした“全てこの世はことも無し”といった空気が漂います。そんな中で守護聖人である聖イシドロのお祭りを口実にマンサナレス河畔に集まってピクニック楽しむ人々の様子をキャンバスに残してくれたのがゴヤでした。いまから230年程前の5月のマドリード風景で、川向うの街が遠望できます。


サン・イシドロの草原 La Pradera de San Isidro  プラド美術館のHPより。

 しかし、好事魔多し、この牧歌的な5月から14年後、同じく5月のマドリードで壮絶な事件が勃発します。これまたゴヤさんが歴史の証人として描いたのがその名も『1808年5月2日、マドリード』です。


マドリード1808年5月2日 又は エジプト人傭兵との闘い
El 2 de mayo de 1808 en Madrid o “La lucha con los mamerucos”  プラド美術館のHPより。

 この日、フランス軍に占領されていたスペインで独立戦争の嚆矢となって蜂起したのが勇敢なマドリード市民たちでした。宵っ張りのスペイン人ですが、不穏な空気を感じたのか月曜日にも関わらず朝早くから王宮前に集まり始めました。案の定、王室のメンバーで最後までマドリードの王宮に残っていたフランシスコ王子をフランスへ連れ去ろうと彼を載せた馬車が出てきたところに市民達が襲い掛りました。この事件をきっかけに街中あちらこちらで駐留フランス軍に対してのゲリラ攻撃が勃発、のちにスペイン全土に広がり、6年間にわたるスペイン独立戦争の火ぶたが切られたのです。

戦争終結後の1814年に6年前の民衆の蜂起を描いたゴヤの作品はマドリードの中心部にある太陽の門広場Puerta del Sol近辺の場面ですが、実際にこの広場でこのような戦闘があったわけではなさそうです。しかしこのゴヤの作品に啓発されたのか、広場に面した現在のマドリード州庁舎の入り口には
『民衆の英雄たちに捧ぐ。1808年5月2日この場所でナポレオン軍に対する戦いが始まった』
と記した石板が取り付けられています。


州庁舎正面玄関脇にとりつけられた石板。

 ちなみにこの戦争で初めてゲリラという言葉が使われました。スペイン語で戦争はゲラguerra 、その縮小時で小さな戦争がゲリージャguerrilla となって英語の発音でゲリラ、今ではゲリラ豪雨やゲリラライブなどと日本語にも定着した言葉ですが語源をたどれば19世紀初頭スペインに於ける対ナポレオン戦争にあったのです。


国の在り方にかかわるような大事件が起こった日付は国民の心の奥底に刻み付けられているのでしょう。多分多くのアメリカ合衆国の国民は7月4日と聞いて特別な感情を抱くのではないでしょうか。またフランス人にとっての7月14日はバカンスの始まり以上の意味があると思います。5月2日はスペイン人、とりわけマドリードの住民にとっては深い意味合いが込められた日付なのです。

スペインでは法律で定められた祝日の日数が一年間に14日あります。しかし全国一斉に休むのはその内8日で残りの6日は各州、並びに市が決めることが出来るシステムです。5月2日はマドリード州が祝日に選びました、今年は日曜日にあたるので休むのは3日の月曜日。以前ご紹介した5月15日 マドリードの守護聖人 サン・イシドロの日はマドリード市が選んだ祝日です。もう5年前になりますがこの話題について投稿したのでもし興味がおありでしたら御笑読いただけましたら幸いです。
https://kc-i.jp/activity/kwn/yamada_s/20160607/

春の到来とともに1日のメーデー、5月2日マドリード市民蜂起の記念日、15日の聖イシドロ祭り、と普段の年でしたら多くのイベント満載の楽しい5月のマドリードですが、今年はまだまだ続く自粛生活、ワクチン接種完了、グリーンパスポート取得を待ち望む春となりました。 

スペインワクチン接種情報4月27日現在
総接種回数  1585万9772回
ファイザー・ビオンテック社製  1100万9704回
モデルナ社製  102万3861回
アストラゼネカ・オックスフォード共同開発  365万2049回
ジャンセン・ジョンソン&ジョンソン社製  7万4158回(先週4月22日接種開始)

これを見るとほとんどファイザー・ビオンテック社製ワクチンと同時に接種を開始したモデルナ社製ワクチンの接種割合が低いのはその価格が影響しているのかもしれません。
〇モデルナ ワクチン:50$~60$(5400円~6480円)
〇ファイザー ワクチン:39$(4212円)
〇アストラゼネカ ワクチン:6~8$(648円~864円)
それぞれ2回分の値段です。

ところでワクチン接種のより一層の円滑化を図る目的で日本政府は接種主体である自治体を飛び越えて自衛隊を災害派遣しての集団集中接種計画を立てたそうですね。そこで使用されるのは一番高価な米モデルナ社製のワクチンだそうです。承認済のファイザー・ビオンテック社製ワクチンの追加調達が本契約ではなくトップ会談の結果として“目途が立った”だけの状態なので、あえて高価でも調達しやすいワクチンを緊急承認しての措置でしょうか。この財力と機動力を遺憾なく発揮してなんとか計画通り7月末までに65歳以上の高齢者3600万人2回接種完了のスケジュールを達成していただけると期待いたします。 

日本からのニュースによると関東地区の大規模接種センター候補は東京の大手町合同庁舎3号館とのこと。5月第3週末を目途にモデルナワクチン緊急承認、5月24日から7月末までの69日間毎日1万人に接種する体制で接種対象となるのは東京及び隣接3県の各自治体から接種券を発行された65歳以上の高齢者とのこと。69万回接種ですとモデルナワクチンは2回接種ですから、全高齢者人口3600万人の0.96%にあたる34万5000人が接種完了という事になります。

一都三県の首長が異口同音に都県境を越える移動の自粛を訴え、都知事にいたっては≪東京に来ないでください!≫とまでお願いしているなか、都民のみならず千葉県、埼玉県、神奈川県から毎日計1万人の高齢者が東京大手町のビルの前に列を作ってワクチン接種を待つ姿を想像すると梅雨の時節と重なって、必要火急とはいえ若干の悲壮感はぬぐい切れませんが、人流制限よりもワクチン接種実績を上げて感染拡大を抑える方を優先する特例措置でしょうか。

またまたスペインの情報から日本の話題になってしまいました。以前にも申し上げましたが、遠くにありて思う故郷の状況がとても気になってしまいます。一時帰国はいつごろできるのかな。

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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