• 2021.09.06
  • 光の景観 Lanscape of Light
さてなんでしょうか? この夏2020東京オリンピックが世界の耳目を集めている最中に、ひっそりと開催されたのがみんな大好き世界遺産に関する第44回世界遺産委員会拡大会合でした。昨年中国福建省福州市で開催予定だったのですが、コロナ禍で延期となり今年オンライン・ミーティングという形で7月16日から7月31日まで開催され、今回の審議で新規に34件がリストに加わり合計1154件となったそうです。

日本では1603年に京都から政治の中心が江戸に移ったように、スペインでは1561年にそれまで帝国の首都であったトレドからマドリードに遷都されました。スペイン各地に存在するローマ時代からの古都と比べると新しい町であるマドリードには歴史的建造物も少なく、中世のない首都とも呼ばれて文化遺産の対象になるような不動産物件はありませんでした。しかし今回ようやく中心地区がスペインでは43番目の文化遺産として登録されたのです。そしてスペインの世界遺産は自然遺産4件、複合遺産2件、合計49件になりました。

ユネスコの公式言語であるフランス語と英語の登録名称は
『Paseo del Prado et Buen Retiro,un paysage des arts et des scences』
『Paseo del Prado and Buen Retiro,a landscape of Arts and Sciences』
日本語訳では『プラドの散歩道とブエン・レティロ地区、芸術と科学の景観』という呼び名ですがスペイン当局が独自に文明と自然の光を集約した地区との意味を込めて名付けたのが表題の『光の景観』です。

 今では美術館の名前として知られているプラドという言葉はスペイン語の一般名詞で野原とか牧草地の意味があります。マドリードが首都になる以前からこの地には代々のスペイン王室と深い関係にあるへロニモ(ヒエロニムス)会のサン・へロニモ・エル・レアル(San Jerónimo el Real)修道院がありその敷地には草地が広がっていてへロニモスの草原(Prado de los Jerónimos)と呼ばれていました。

そして遷都したフェリペ2世国王が㉕修道院付へロニモ教会(Iglesia de San Jerónimo El Real)脇に祈りや謹慎の為のスペースを作り、またマドリード市民の憩いの場所としてヨーロッパで最初といわれる並木をもった遊歩道を整備させて、お隣にあった野原の名前を拝借しプラドの散歩道と命名された次第です。パリのシャンゼリゼ通りが計画された1616年より50年程前の話です。そして後年になって散歩道脇に建設された自然科学博物館が美術館に変更されてプラドと命名されました。無理やり日本語に訳せば草原美術館?

ちなみにフェリペ2世がこの事業を進めている最中に日本から天正遣欧少年使節団の一行がマドリードに到着、1584年11月14日この教会で行われた、後にフェリペ3世となる当時の皇太子に忠誠を誓う儀式に参列した後、陛下に謁見を許されて手厚い歓待を受けたそうです。話は若干それますが当時世界に日の沈むところない大帝国を治めていた陛下は教皇猊下に匹敵するほどの勢力を誇っていて、ヨーロッパにおける使節団の旅程のつつがない遂行にご尽力なされたという事です。

そして時代が進むにしたがってこのプラドの散歩道沿いには後に㉔国立プラド美術館となる自然科学博物館、㉛王立植物園、㊱王立天体観測所、⑰王立スペイン語アカデミー、⑧海洋コレクション博物館、近代になっても㊳国立王女ソフィア美術センター、⑪ティッセン・ボルネミッサ美術館、等々芸術と科学に深い関係のある施設がてんこ盛りになり自然と融合した景観として世界文化遺産に認定されたのです。


図1

図1はこの地区が認定された根拠ともなるモニュメントの数々です。右半分を占めるレティロ公園の面積は118ヘクタールで今年の3月にオープンしたスーパー・ニンテンドー・パークの面積を加えて合計45ヘクタールになったUSJの敷地面積の約2.6倍になります。 

もう一つレティロと言う単語、英語ではretireリタイアで、引退とか隠遁また、謹慎するという意味があります。復活祭前の40日間(四旬節)はキリストの受難を思い、肉食を絶ち、斎戒謹慎の生活をする習わしに従い王侯といえどもこれに従うのですがスペインに文芸の花を咲かせた黄金世紀(Siglo de Oro)のフェリペ4世はこの地にレティロ(隠遁)とは程遠い広大な離宮と庭園を建設しました。その名残の一部が現在のレティロ公園です。


図2

図2.これがフィリップ4世のパラシオ・デ・ブエン・レティロです。英語にするとGood Retire Palace とでもなるんでしょうね。公園以外はスペイン独立戦争の際に破壊されてしまったそうです。現在かろうじて残っているのが⑱のカソン・デ・ブエン・レティロ、舞踏会場として建設され現在はプラド美術館研究センターとなっています。
そしてもう一軒は2018年2月13日『プラド通信・番外編』
https://kc-i.jp/activity/kwn/yamada_s/20180213/
でご案内した諸王国の間(Salón de Reinos)の部分で現在プラド美術館の分館となり復元及び改装工事中です。

 日中の温度が50度を超える日もある真夏のマドリード、その中心部で新たに世界遺産に指定された遊歩道や公園の日陰でベンチに座りキラキラ輝く噴水を見たり、その水音を聞きながらをマスクを外して一息つくささやかなひと時に癒されますが、帰宅する際の市バスにはマスクをしないと乗せてくれません。 

追記
今回の世界遺産委員会で新たに日本の以下2件も登録されました。
自然遺産 
『Amami-Oshima Island,Tokunoshima Island,Northern part of Okinawa Island,and Iriomote Island』
「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」
文化遺産
『Jomon Prehistoric Sites in Northern Japan』
『北日本の縄文遺跡群』

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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