登場するシーンとしては朝、昼、晩、深夜、早朝と時を選ばず、家庭、学校、職場、車内、公園、工事現場、バー、カフェテリア、定食屋さん等々、場所も選ばず手軽に腹ごしらえできる優れもので、家庭で作ったり、カフェや居酒屋、ガソリンスタンドでも購入可能です。そして駅弁の無いスペインでの長距離移動の際には必須アイテムとなります。少なくとも私達の電車移動には欠かせません。以前、海苔むすびと沢庵を電車内に持ち込んで周囲の乗客の顰蹙を買った苦い経験があるので最近はもっぱらボカディージョ弁当にしています。これでしたらパンの中に多少癖のあるカビ・チーズや独特な香りのするチョリッソ・ソーセージを入れてもスペインの皆様にはおなじみなのでお目こぼしいただけますから。
さてこのボカディージョ、パンに具を挟んだ食べ物なのでつまりサンドイッチでしょう!? と問いかけられたら断固としてサンドイッチではありませんと申し上げます。スペインでサンドイッチと呼ぶとパンが平たい四角形、つまり日本でいうところの食パンの形状の場合に限られます。ボカディージョに使用するのは基本スペインでbarra と言うバゲットタイプのパンですが要するに四角くなければ及第です?潜水艦SUBmarine型パンに好みの具をアレンジして作るアメリカ起源のファストフード・チェーンもスペインでのオフィシャルHPでは自社製品をサンドイッチではなくBOCADILLO と称しています。最近では四角いチャバタパンを使用したバージョンも発売されましたがやはりサンドイッチではなくSUBOCADITOSと呼んでいます。
写真1
写真1.は近所のバル・レストランのボカディージョ・メニューの看板です。出来立て熱々の具を挟む”温caliente”タイプと冷たいハムやチーズを挟む“冷frío”タイプがあります。
/①豚バラ肉 ②豚ヒレ肉 ③焼きベーコン ④チョリッソ・ソーセージ炒め ⑤ブルゴス産モルシージャ(ブラッド・ソーセージ) ⑥茹でハム ⑦子牛のステーキ ⑧スペイン・オムレツ ⑨ イベリコ豚の生ハム ⑩セラーノ生ハム ⑪イベリコ豚のチョリッソ・ソーセージ ⑫ イベリコ豚のサラミ ⑬ 羊チーズ ⑭ ツナと赤ピーマン ⑮カタクチイワシの酢油漬け ⑯ 塩漬けアンチョビ ⑰イカ・フライ
日本ではおにぎりの具人気ランキングなる統計があり年代・性別ごとの嗜好の違いが反映されているようですね。多分今から50年前には存在すら珍しかったツナ・マヨ系が現在では圧倒的な人気を誇っているなか伝統的な梅干し、塩鮭、おかかも健闘しているのはうれしい限りです。 そこでスペインのボカディージョの中身ですが、だれが何と言おうと絶対、多分、恐らく....,個人的にはダントツで一位はtortilla españolaスペイン・オムレツでしょう。
この別名tortilla de patatasジャガイモ・オムレツは前回の投稿でもご紹介したように何しろ国王陛下が直々にレシピを投稿なさった位の国民食で、材料は物価の優等生である卵とジャガイモのみ、上記メニューの中でも最安値です。それは幼少期どころかお母さんの胎内に存在したころから染みついたDNAに訴えるまさにスペイン人のソウルフードでしょう。写真2.は正しいスペイン・オムレツ Tortilla española の雄姿、 el Sol de España スペインの太陽とも呼ばれるのもさもありなん。写真3.はその内側で通常の火入れ具合ですが、ドロドロ半熟状を絶賛する派も多数存在します。この一切れは飲み物を注文すると無料で提供されるアテのサイズです。
写真2
写真3
さて挟む具第二位以下となるとここは千差万別、地域差、制作時の冷蔵庫の内容、空腹状態、時間や心や財布の余裕も勘定に入れなければなりません。候補としては定番の生ハム、これまた超高級ドングリ飼育イベリコ生ハムからお手軽なセラーノハムまで懐次第、それからチーズ、特に熟成したラ・マンチャ産マンチェゴ・チーズは不動の人気です。
日本の様に凝ったキャラ弁を作る習慣がないスペインの家庭では子供達に持たせるお弁当ボカディージョは、レバー・ペーストやナッツを混ぜたチョコレート・スプレッドを塗りたくって挟んだりします。また缶詰類もボカディージョ製作には欠かせないアイテムで、オイル・サーディン、ムール貝、鯖缶、などが定番でしょうか。鯖の浸かっていた油が浸み込んでしっとりしたパンもこのボカディージョの醍醐味ですね。
此処マドリードで大人気なボカディージョの具はイカ・フライcalamares fritos で、専門店まで出現しました。マドリードへ上京した思い出に試してみる人も多く、盛り場やターミナル駅付近にはイカ・フライ・ボカディージョを売りにしている店も多くみかけます。一番近い海から360㎞離れている内陸の都マドリードの名物がイカとは!スペイン北西部のガリシア州では海がないオレンセ県のタコ料理が有名ですし、山梨県の名産がアワビの煮貝なのと似ているかもしれません。
近頃は日本でもスペインの立ち飲み文化が浸透してきた様子でタパス料理とかピンチョス料理も知られるようになりました。居酒屋などで提供されるつまみをパンに乗せるだけで挟まないもので、ボカディージョの親戚筋と思いきや近年の美食ブームの煽りで勘違いしたのか“なんちゃら風味のソースを添えて”などと凝った題名をつけ、やれエスプーマだとか、液体窒素だ分子調理だと物騒な動きもありますが、隣国のタイヤ会社の評価など歯牙にもかけずスペインのDNAを伝えている骨太なボカディージョを断固支持します。とこれは妄想おじさんの独断と偏見まじりのコメントでした。
追記 今でも国民的議論の的はトルティージャに玉ねぎcebollaを入れるか否か、玉ねぎ混入反対派はsincebollista ,賛成派はconcebollista と呼ばれています。アルフォンソ13世陛下のレシピは玉ねぎ無しですが昨年の世論調査では親玉ねぎ派が73%と優勢な状況です。私自身は親玉派、ジャガイモの四分の一から半量程度の玉ねぎをよくよく炒めて混入すると甘さとコクが増して味に深みがでますよ....と、これまたあくまでも個人の見解です。