図1
建設計画そのものは1986年ローザンヌでの最終投票で五輪開催が決定する3年前から始まっていました。1983年、当時のPascual Maragallバルセロナ市長のコンペ参加要請を受けてプロジェクトが始動しました。コンセプトとしては威圧感を排除し建屋自体は低くおさえながら、地面を掘り削って内部空間を確保しつつ周囲の環境と共鳴すること、またバルセロナのアイデンティティーを表現することです。それは建屋の外周部分で地中海の穏やかな波が表現されています。また壁がほとんどない大きな空間の母屋と柱、庇(ひさし)で構成された寝殿造りを連想させる構造です。図1.はコンセプトデザインです。
図2
写真1
写真2
そして構造設計を担当したもう一人の主役である川口衛博士が考案したパンタドーム工法と呼ばれる方法で安全かつ工期を短縮して建設されました。図2.は地上で組み上げた天井部分を電車の屋根についているパンタグラフのように持ち上げる様子です。このようにして当時の最新技術を取り入れながらも日本の伝統である自然と対立しないたおやかな姿を実現させました。写真1.はリフトアップされたパンタドーム構造です。ちなみにこのスタジアムが竣工した1990年から5年後、大阪門真市に同じ工法で建設されたのが、なみはやドーム(東和薬品RACTABドーム・大阪府立門真スポーツセンター)です。
このサン・ジョルディ・スタジアムは現在でも多目的会場としてコンサートや各種イベントにも利用されていて、もちろんメインの各種スポーツ大会でも活躍、モンスタートラックのクラッシュカーレースやら、わざわざ土を敷き詰めてクレーコートに仕上げデビスカップ会場にしたり、仮設プールを設置して、2013年の世界水泳選手権の会場にもなりました。写真2.は仮設プール設置現場の様子です。ちなみにこの大会で北島康介選手は平泳ぎ100mと200mで世界新記録を出しダブル金で優勝しました。 選手のなかには『仮設プールでは波が消えにくくて泳ぎづらい』との意見もあったようですが、北島選手の感想は一言『関係ないっすよ』でした。
写真3
写真3.はドン・キホーテの物語の舞台にもなったモンジュイックの丘の中腹に建設されたサン・ジョルディ室内競技場です。そして前庭に設置されているオブジェは磯崎夫人で彫刻家の宮脇愛子氏作『うつろひ』です。奥さまと言えば、磯崎氏の数多くの作品のなかでほとんど知られていない意外な小品?は宮脇愛子様のご実家のお墓です。それはピラミッドを連想させる変形三角錐の黒い墓石で周囲の伝統的な墓のなかでひときわ目立ちながらも妙に調和した佇まいです。