実際、一年365日休まず営業するのはパン屋と葬儀屋と言われるくらいで、スペイン人の日常生活に欠かせない食品であるのは間違いありませんが、そもそも主食とは食事の中で一番重要なエネルギー源としての炭水化物(糖質と食物繊維)との認識からすると、パンが主食かと問われれば若干疑問がありますね。スペイン人にとってのパンはその摂取割合からしてもあくまで料理を頂く際の重要な脇役の位置でしょう。
一方日本での主食は米、ご飯で全国民納得しますね。このご飯を如何に美味しく食べられるかを工夫して発達した料理が和食の本質かもしれません。多分ご飯に合わないおかずは外国料理でしょうし、ご飯に合うように外国料理をアレンジしたのがいわゆる洋食屋さんやホテル・レストランの献立でしょうね。 パンにしますか?ライスにしますか?の乗りです。
幼少期から青年期にかけて身についた習慣や癖などはその後、歳を重ねても変わらずに残っているものだ、という意味で“雀百まで踊り忘れず”などと言われています。私自身、人生の3分の2以上スペインで暮らし、こちらの生活に慣れきっていて、かてて加えて外国人という気楽さや甘えもあり、日常生活全般においてほとんどストレスがありませんが、確かに青年期まで慣れ親しんだ日本の食については忘れがたいものがあります。
こちらの生活を始めた留学生時代、マドリードには日本食レストランが一軒だけありました。しかし持参した貴重な外貨をなし崩しに使っている貧乏学生にとっては高嶺の花、米と醤油味が恋しくなると下町の激安中華料理店で異様に赤くて甘い酢豚や、具のほとんどがキャベツの春巻、炒り卵と細切れ人参、刻み葱などが入った焼き飯を食べながら望郷の想いに駆られたものです。今となっては外米のパラパラご飯に搾菜をのせて烏龍茶をかけたお茶漬けも懐かしい思い出です。
そんな蛍雪時代、近所の食料品店の棚に見つけたのが亀甲印の小瓶、なつかしさのあまり即購入、その足で米と玉子も入手し、急いで帰った下宿で作った玉子かけご飯を口に入れた瞬間に故郷日本が出現しました。真っ黒で塩味が強く風味に欠ける中華醤油しか売っていなかった大昔の話です。その時日本醤油の美味しさは勿論ですがご飯のありがたさを再確認、それ以来、飯炊き修行を続けております。
写真1
普通の鍋でもご飯は炊けますが、調理中付きっ切り監視していないといけないのでやはり便利なのは電気炊飯器ですね。写真1.は1980年代長期ミッションで北部の製鉄所にこもっていた時代から愛用している炊飯器です。コンセントが壊れて、交換したくらいで今でも現役で活躍しています。
写真2
写真3
しかし写真2.の二合炊き羽釜を入手してからは、電気釜はもっぱら味付けした炊き込みご飯用として使用し、白米は羽釜で炊いています。また絶妙な加減のおこげができる写真3.の土鍋釜で炊いたご飯は艶々でこれぞ銀シャリ。
写真4
写真4.は20年来使用している精米機です。精米したての米を羽釜や土鍋でおこげが付くように炊き上げ、玄米を精米する際に出てくる糠を使って糠漬けを作っておかずにするという、日本では珍しくもない事でしょうが此処スペインでのささやかな贅沢と思っております。 その際、どうしても欲しくなるのが納豆です。
写真5
そこで写真5.のヨーグルト製造機の登場です。42度を24時間保つ発酵機能を使い、 近所のスーパーマーケットで手軽に入手できる大豆と、日本から持ち込んだ納豆菌で自家製納豆を堪能しています。この納豆菌3gでなんと納豆が30㎏出来てしまいます。これで精米し立て、炊き立てのご飯、糠漬け、納豆、生卵、そろい踏みの和朝食完成となります。西欧と呼ばれる中でも一番西にあるスペインで遠き故郷を偲ぶ食生活、三つ子の魂百までですね。
・・といつもの如くスペインの話題から脱線してすみません。長期海外在留邦人のあるある話として聞き流してください。
蛇足ながら、今では世界的和食ブームもあいまって、ここマドリードでも日本米、味噌、醤油(これも減塩、たまり、照り焼き、グルテンフリー、オーガニック、と多種多様)、昆布、海苔、豆腐、納豆から野菜は、白菜、ニラ、大根、椎茸、蓮根、大和イモ、里芋、生姜、までなんでも手に入ります。最近は和菓子屋さんも出来始めていて、あえてスペインでは食べられない和食というと多分テッサ、ふぐ刺し位でしょうか。