写真1
そこで今まで収集家や美術館関係者にしか知られていなかった裏面にも興味深い点がある作品をひっくり返して鑑賞して頂こうというのが本展の趣旨で、例えば会場に入るとすぐ、プラド美術館の至宝とも呼ばれているベラスケスの傑作、『女官達・Las Meninas』の裏側の完璧なレプリカがお出迎えです。作品の左側約四分の一がキャンバスの裏面という大胆な構図も展覧会の趣旨に合致する事を踏まえての事でしょう。写真1がベラスケスのオリジナルと、Vik Muniz氏作の裏面です。
2018年6月、作品の状態を把握する技術的な調査の為、壁から降ろされた際に細部にわたり検証し撮影した資料を基にした結果、現在の木枠は1920年頃カノ・ファミリー工房の制作で、松材が使われているのが分かりました。また止め金具の類は当時の工房自体が存在しないので探した結果マドリードの蚤の市で同じ素材を発見して使用し、キャンバスの亜麻糸の本数まで数え油の滲みに至るまで正確に復元したものです。
写真2
写真3
また、ピカソの代表作の一つと考えられる大作『ゲルニカ・Guernica』は、パリ万博のスペイン パビリオンで展示された後、戦争反対、平和の象徴として世界各国を巡回しました。その際に同行した組み立て式の木枠も今回展示されています。写真2.は現在ゲルニカを展示している国立ソフィア王妃芸術センターからお借りした当時の巡回展用木枠の一部です。
絵画作品の裏面からはその来歴や持ち主の変遷を示す、シールや証明書、板絵の裏の焼き印やら作者の説明文、貧しい画家がキャンバス代節約のために使用した痕跡、公開を憚れるような秘画など様々な状況を読み取ることが出来ます。
写真3.ですが、18世紀ウイーンのマリア・テレジア皇后お抱え絵師だったMartin van Meytensのいたずら心満載の作品です。雇い主は美術における裸体表現を毛嫌いしていたので、気を使ったのか表向きは祈りをささげる敬虔な修道女ですが、裏面に彼女の赤裸々な裏側を描いています。美術収集家としても名を馳せたスエーデン大使Carl Gustaf Tessin 伯爵はパリ在任中に自邸の化粧部屋にこの銅板画を飾り、心を許した友人達にだけ裏面を披露していたそうです。ちょうどゴヤ作『裸のマハ』の持ち主であったマヌエル・ゴドイ首相がしたように。
写真4
写真5
写真4と5は展示作品中最も古い1426年~1430年頃フラ・アンジェリコが描いた板絵『修道院長聖アントニオの埋葬』の表と裏です。ALBのロゴはアルバ公爵家所有を表し、14代アルバ公が1817年フィレンツェで取得した作品だそうです。
写真6
写真7
そしてこの作品の額の裏側に日本製らしき金具を見つけました。刻印がTAKIYAとあり、調べたら大阪の金物屋さんで展示用金具等の製造販売するタキヤ株式会社の製品でした。600年前の作品を裏で支えているのが最新の日本の技術だと知ることが出来たのもこの『裏側展』のおかげです。写真6と7は同社のプラド美術館向け特注品です。ここだけでなく、ロンドンのザ・ナショナルギャラリー、パリのルーブル美術館、ニューヨークの近代美術館等々、世界中の名だたる美術館や博物館での展示に寄与する裏方的日本企業の存在を誇りに思う次第です。
https://takiya.com/works/prado/index.html
『Reversos裏側展』『On the Reverse』
於 国立プラド美術館 マドリード スペイン
自2023年11月7日 至2024年3月3日