写真1
写真2
この液体の分析で注目したのはワインのバイオマーカーとしてのポリフェノールでアンダルシア地域のワインであるシェリー・ワイン、サンルーカル・ワイン、モンティージャ・ワインと比較すると7種類のポリフェノールが一致したそうです。しかし赤ワイン特有のシリング酸は含まれておらず、白ワインと特定できました。また色については遺灰の存在とワイン自体の酸化作用で赤くなったのではないかと推測されています。 この地方の白ワインで有名なモンティージャ・ワインやシェリー酒が身元の候補に挙がっているとのことでした。
シェリー酒といえば人類初の地球一周を成し遂げたマゼランが大航海の際に大洋に向けての出発港、サンルーカル・デ・バラメーダ港で積み込んだのは253個の樽と417の皮袋につめたシェリー酒でした。500年前に初めて世界一周したそのシェリーの種類については資料に明記されていませんが長期の保存に耐えるタイプということで酵母下で生物学的熟成を終えた後、酸素に触れて物理的な酸化熟成させるアモンティジャード・タイプと想像されます。 写真3はシェリーの造り酒屋オズボルネ社を見学した際に頂いたシェリー5種の利き酒セットです。シェリー酒の中で特に食前酒として親しまれているのは左端に写っている辛口のフィノ・タイプでしょう。2019年10月22日天皇陛下御即位を祝い開かれた饗宴の儀の際にふるまわれた食前酒も写真4のサンデマン社謹製フィノ・タイプのミディアム・ドライでした。
写真3
写真4
ところで元禄2年(1689年)創業の長野県佐久市の大澤酒造に創業時から未開封のまま保管されていたのが現存する日本最古の日本酒と言われています。1969年テレビ局の番組撮影の際に開封され、試飲したお酒博士の坂口謹一郎氏は“香りがスペインで出会った100年物のシェリー酒とそっくりだ”と感想を述べました。多分そのスペインで味わったシェリーも長期の熟成を経たアモンティジャード・タイプではなかったかと推察します。ワインと日本酒、原材料も製法も違う2つの酒に時の流れが加わると似てくるとは神秘的ですね。
今回、液体のまま発見された2000年物の古代ローマ時代のワインの末裔が、大航海時代に地球を一周する大冒険のお供をして世界中に広まり、日本の皇室の祝宴にまで登場するアンダルシアが誇る銘酒となると、左党の私としてはこれからは襟を正して頂戴しようと思います。少なくとも最初の一杯は。