• 2018.01.24
  • 世界に一つ
日本には一つの技を極め人間国宝と呼ばれる重要無形文化財保持者が116名もいるそうで、一つの分野を極める姿勢が日本は非常に強いと思います。イタリアはマルチ人間、ダ ヴィンチが生まれた国、ジェネラリストがいっぱいです。私の周りを見ても、フルート奏者として働いてはいますが棒高跳びのれっきとした選手でメダル持ちの女性や、公認会計士がヘリコプターまで駆使してプロ顔負けのネイチャードキュメンタリーをプロデュースしたり、まだ裁判で負けた事が無いやり手の女性弁護士 がシンガーとして活躍していたりと、驚くべきマルチ人間が大勢います。

その中で、ニコラ モネータさんは裕福な家庭で育った影響なのか、自分の好きな事を極める時間と金銭的余裕があるに違いありません。彼はコントラバス奏者として活躍していたのですが、打楽器にも興味があったので打楽器も勉強してティンパニストになりました。バロック時代の楽器と再現に情熱を燃やし、トロンバ マリーナも自分で再現してしまうほどの凝り性です。現代では弦楽器の弦はナイロン製が主流ですが、当時は羊の腸で弦は作られました。ニコラはこの羊の腸を使って弦まで作る凝りよう。ところでトロンバ マリーナは楽器なのですが、楽器と呼ぶことに音楽家の私には抵抗があって、と言うのは見た目も悪いのですが音色も美しくないのです。ちなみにトロンバとはイタリア語でラッパのことで、マリーナとは海辺のこと。どう見ても弦楽器にしか見えないこのトロンバ マリーナ。なぜラッパなのでしょう?海の音の何かに似ている音が出るのでしょうか?実際に弾いてもらった時は海を連想させるものは何一つ無くて、この奇妙な形と音に笑い崩れているうちに名前の由来を尋ね損ねてしまいました。


様々な楽器のコレクションが彼の自宅に置いてあるのですが、展示してあるだけではなくて彼は弾きこなすので素晴らしいです。トロンバ マリーナよりも更に強烈な楽器をニコラは持っています。その楽器を奏でるニコラは実は世界で貴重な音楽家なのです。コントラバスよりも更に大きい楽器、オクトバスを皆さんはご覧になったことがあるでしょうか。 ちなみに、オクトバス奏者は一時期世界にニコラ一人だけだったらしいですが、最近はライバルが出現したようです。


何年も前に、私が参加したシンフォニーオーケストラのコンサートにおいて、ニコラがオクトバスを弾いたことがありましたが、オクトバスの音域があまりにも低すぎて、オーケストラ全体の音量が大きいせいもあって私はオクトバスの音色を謳歌できませんでした。会場のお客さんに感想を聞いたところ、なんとも言えないような低い音が大きなうねりに乗って静かに客席の合間をぬって会場を満たす、という感じだったそうです。巨大なクジラが海の底を静に泳いでいるようなイメージが湧いてきて客席で聴いてみたかったなぁと思いました。

特派員

  • 三上 由里子
  • 年齢戌(いぬ)
  • 性別女性
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地に、ソロコンサートアンサンブルの編成で演奏活動の傍ら、演劇、画像、舞踊やライブ演奏を組み合わせたマルチスタイルの舞台プロデュース。

三上 由里子の記事一覧を見る

最新記事

おすすめ記事

リポーター

最新記事

おすすめ記事

PAGE TOP