• 2018.09.27
  • 絶景の後の絶句の度合い
ミラノから電車で約1時間のコモ湖。イタリアに移住して間も無い頃、ガイドブックを開くとコモ湖の案内が充実していたので重要な観光スポットであることを察して、即コモ湖を訪れた覚えがあります。

街中を散策し大聖堂などを訪れ水上ボートに乗ったり、ケーブルカーに乗って山の頂上に行きコモの街並みを見下ろし、広がる湖の絶景を堪能する、と典型的な観光ルートを辿りました。これで十分コモを満喫したと思っていました。ところが、コモ湖の本当の姿は、ケーブルカーの頂上から眺めたコモ湖の広がりの先に散らばっていることが最近になってやっとわかったのでした。


ガイドブックにも載っているように、コモ湖は昔から貴族たちの避暑地として栄えていました。その証拠に、華やかで荘厳な別荘がコモ湖沿いにズラリと建っていて、場所によっては湖畔沿いに隣り合わせで建ち並んでいる所もあります。今日に至っては、ホテルに改造されたり、イベントやVIPの結婚式に貸し出されたりして廃れることなく世紀を超えて、別荘は呼吸をし続けています。

現代人を圧倒する当時の貴族の生活空間の豊かさは、まず建物の大きさから伺えます。そして広大な庭、それから内装の装飾と見て行くと口は開きっぱなしになります。そして、ため息が出るのが、目の前に広がるコモ湖の景観というロケーション。


イタリア文学の一つに、マンゾーニ作の「いいなずけ」と言う小説があります。イタリア人でこの小説を知らない人は居ないくらい重要なイタリア文学の一つなのですが、コモ湖が背景のこの小説には、読んだ人が誰もが暗唱できるコモ湖の美しさを讃えた文のくだりがあり、コモ湖沿いを散策しながらマンゾーニの作意に思いを馳せるひと時を過ごすことになります。

コモ湖の魅力は世紀を越えて廃れることなく、当時の貴族が魅了されたように現代の貴族、すなわちVIPたちが世界中からコモ湖への滞在を目指して訪れます。俳優ジョージ クルーニーがコモ湖いに建つ邸宅のうちの一軒を買ったことが話題となった頃から、コモ湖は更なる賑わいを見せています。

ミラノからコモの町へのアクセスは、車移動していない観光客にも電車という簡単な方法があるのですが、これらの邸宅へのアクセスは、電車でという訳には行きません。水上バスという乗り物が加わってきます。しかも水上バスの利用が、全ての邸宅への訪問をカバーしているわけでもなくて、詳細がよくわからないバスに乗ったりタクシーを利用したり、と気持ちが削がれてしまいます、、、が、一般人に解放している幾つかの邸宅訪問はオススメします。

職業上、私は夏場にほぼ毎日これらの別荘に車で通勤します。いくつものトンネルを抜けた後に下方に広がるコモ湖の絶景は、毎日通っても飽きない景色なので、「邸宅にとは言わないけれど、コモ湖に1年間だけ住んでみたい。早朝から夜中までの景観の移り変わり、四季を通しての色あいの変わり方、様々な天候や気候の変化が作り出す景観の違いを堪能してみたいの」と同僚たちに言うと笑われます。と言うのは、冬場は夏季のコモからは想像できないくらい寂しい場所になるのだとか。コモ湖沿いの住民たちは閉鎖的で、且つ隣近所の動向を一挙一動を見張って把握しているとか、その他色々言われて、私の夢は儚く崩されてしまいました。

さて、コモ湖沿いの邸宅は知り尽くしたつもりでいたのに、先日、今まで行ったことがない邸宅に仕事で行く事になりました。


最低1週間のステイが条件、2015年度ヨーロッパ ベストワンに選ばれたVilla Cassinellaというこの高級ホテルは、コモ湖に張り出した岬の岩山に溶け込むような立地で、ボートのみのアクセスという隔離された場所となっています。1週間のステイは約1500万円、と言っても桁が大きすぎて私にはピンとこないのですが、1時間約9万円の単位になると言い直されると、破格の度合いがわかって絶句しました。


来年の夏は、どんな邸宅に出入りすることになるのでしょう、、、

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地に、ソロコンサートアンサンブルの編成で演奏活動の傍ら、演劇、画像、舞踊やライブ演奏を組み合わせたマルチスタイルの舞台プロデュース。

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