長年ミラノに住んでイタリア人の欠点も長点も知り尽くしたような私も、この回答には異存がありません。北イタリア人の気質は、一般のイタリア人とはちょっと違って北ヨーロッパ人に通じていて快活と言うよりも控え目だと言われますが、それもそうなのですが私を囲むミラネーゼ達のキャラクターを言い表すとなると、やはり「陽気」の一言に尽きます。
具合が悪い人でさえ冗談を言ってみせたりして、具合が悪いのをこちらがつい忘れてしまうことも。
先日、その具合の悪い人のために薬局に行って、薬を購入した時のことです。薬の入った箱を開けると、小さく折り畳まれた紙が入っています。裏表の両面にぎっしりと印刷された小さな文字は、この薬を飲んだら治ることを教えてくれる大事な説明。
イタリアでは説明書とは呼ばれないこの説明書は、信じられないことにbugiardino「ウソつき君」と呼ばれている物なのです。冗談好きなイタリア人だとは言え、薬の効能性又は信憑性に疑問を沸かせるようなこのネーミングは強烈ではありませんか?
「このウソを信用していいのだろうか」と少なからず思わされるこの「ウソつき君」のネーミングを調べた所、私が期待したほどのはっきりした由来があるわけではありませんでした。
トスカーナ州の町、シエナのキオスクに張り出されていた新聞のポスターから発生したと言われていますが、これだけでは今いちピンと来ないし物足りないではありませんか。一説によれば、薬の説明書というものには効能の記載のみならず副作用や注意事項も書かれていることから、気をつけなくてはならない存在ということを強調してこのネーミングに行き着いたとか、逆に、極小文字を使った記載によって巧みに読み落としを促すような、又は読解を混乱させるための意図的策略も関連しているとか。どちらにしてもわかるようでわからない由来説。
別説では、薬というものが普及し始めた頃、医学的専門用語の列記に戸惑う一般人に配慮して、馴染みのある単語をあてがう傾向があったことも「ウソつき君」誕生の可能性として挙げられています。分かりやすい最近の例では、2000年前半に流行った牛海綿状脳症 encefalopatia spongiforme bovinaは、メリーポピンズのスーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスを覚えられないでいる私の言語における記憶力不足に配慮したかのように、狂牛病Mucca pazzaと簡単な名前で呼ばれた事は皆さんも記憶しているでしょう。
Mucca pazzaムッカ パッツァは、何だか楽しい気分にさせる響きを持っているが故に、世界中を震え上がらせた病名とは思えず、「ウソつき君」と言いイタリア語のネーミングにはイタリア人の陽気さが影響していて悲劇の中に常に喜劇が顔を覗かせていると思うのです。
参考資料:ウィキペディア