• 2019.10.10
  • ヌード
イタリアに住み始めたあの当初、様々なカルチャーショックを受けたものでした。私は幼少の頃から数少ないとは言えども外国に行く経験があったので、色々な国、町、人種などを見てきたのですが、イタリアは強烈な発見に溢れていたように思います。

今でこそ見慣れたせいなのか、もう何とも思わないのですがミラノに住み始めた当初、街中にかかっている巨大ポスターに視線が釘付けになったものです。その時は、ある靴のメーカーの宣伝だったと思うのですが、ほぼヌードの女性が誘惑的なポーズをとって誘惑的視線でこちらを見つめていました。その横たわってこちらを見つめる美しい女性の傍に、スポーツシューズが写っていたような、、、




こんな強烈なポスターに視線を奪われたりして交通事故などを起こさないものなのかしら、とポスターの傍を行き交う車を見送りながら感心していたものでした。その後、テレビを見ていると腕時計か何かのコマーシャルで、別の女性が例によって肌を大いにさらけ出して挑発的なポーズと視線で現れました。で、コマーシャルの最後に腕時計がちょこんと一瞬現れたかもしれないような、、、

宣伝内容のメインとサブがひっくり返っているじゃぁない!と覚えたての片言イタリア語を並べて懸命にイタリア人の同僚に訴えると、苦笑するのみ。あの苦笑いは、私の下手なイタリア語に対してなのか、女性のヌードを見て騒ぐ私に対してなのか、私の指摘がもっともだからなのかは、わからないまま。

その後、気がついたのです。イタリア各地にある歴史的建造物を見ていくとどこもかしこも全裸の銅像や石像がいっぱい。世紀の巨匠達による絵画にも、ヌードが沢山。


イタリア人達はヌードに囲まれて、つまりヌードと共に育っているので、ヌードに対して私のような反応はしないことがわかって来ました。でも、それにもかかわらずやはり注意を引くためにはコマーシャルや宣伝にヌード要素は欠かせないらしい。

ところで先日、一般的な芸術作品のヌード像とは違う奇妙なヌードを見つけました。女性がアンダーヘアのお手入れをしているところを浮き彫りに掘った大理石のレリーフ。「わいせつ女」とミラノ方言まで交えた名前で名付けられたこの作品は、12世紀のものだとか。作品が見られるのはミラノのスフォルツェスコ城。このちょっと笑える不思議なヌードには、目立たない場所柄でもあったので長いこと気がつかずにいました。



なぜこんなレリーフが作られたのかがわからない未解明な部分を残している作品なのだそう。12世紀のそのころ、アンダーヘアを剃るのは娼婦の印だったとそうで、それがゆえ、面白がってこんな作品を?
一方、当時ドイツ皇帝フェデリコ バルバロッサがミラノを徹底的に破壊したその恨みから、彼を侮辱し怒らせるために、彼の奥さんであるお妃ベアトリーチェをこのレリーフのモデルにして作られたとも言われています。

その当時はスキャンダラスで意地悪な意図で作られたであろうこの作品が、運悪く発覚していたら叩き割られて破壊されていたかもしれませんね。それだけでなく作者は首吊りの刑にかけられていたかもしれません。世紀を超えた今日では崇められ、この作品が持つ価値が意味とともに変わったことを、私はこの奇妙なヌードに見出したのでした。ハッピーエンド。


特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地に、ソロコンサートアンサンブルの編成で演奏活動の傍ら、演劇、画像、舞踊やライブ演奏を組み合わせたマルチスタイルの舞台プロデュース。

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