世界遺産の一つで水の都と呼ばれるベネツィア。細い水路が入り組み、歩道 が迷路のように織り成していて、水路をまたがる無数の橋を上ったり降りたりしながら、車一台たりと走っていない静けさの中を闊歩できる魅力的な街。水に取り囲まれて、水と密接な関係を保ってきた島。けれども地盤沈下と水面上昇問題で、いずれは水面下に沈むと言われている悲劇的な運命にあります。
さてベネツィアでは、近年頻繁に起きているシロッコによる高潮や洪水から街を守るために防波堤のような壁を作る巨大プロジェクト「モーゼ」が立ち上げられました。が、今回のベネツィア水害は深刻だったので「モーゼ」完成の法外な遅れが再び物議を醸し出すきっかけとなりました。終日、テレビでは激しい討論が繰り広げられています。なぜなら「モーゼ」完成の遅れには色々理由があって、建設的に複雑な上に、財政問題もあり、さらには汚職事件が絡んでいるからなのです。
一方ミラノでも異例とも言える雨天の日々が続いています。雨天が続くとミラノ北部ではセヴェゾ川の氾濫が問題になっていましたが、ミラノ近郊の近代化によって雨水を吸収できる土壌は減る一方で川の氾濫被害は年々深刻化していると聞いています。
解決法?
川周辺の都市間の喧嘩などで解決法への工事着手は難航した上に、工事を担うはずだった建設会社の倒産まで加わって、未だに改善されていない次第。そして今日も雨。市民の安全が確保されないような状態が延々と続いているわけです。年々の抗議も虚しさを増している様子。
水害被害に対しての抗議のために建てられたわけではないのですが、やるせない気持ちを反映する象徴的な像がミラノの中心地にあります。ドゥオモから800メートルにあるイタリア最大の証券取引所広場。ファシズム様式の建物に囲まれてできた広場に、沈黙の抗議をする像がどっしりと重みをかけて居座っています。
L.O.V.Eという題名のこの大理石の像は、物議を醸し出すアートを発表するアーチストとして有名なカッテランの作品で、L=Libertà自由、O=Odio憎しみ、 V=Vendetta復讐、 E=Eternità永遠から来ていますが、実際にはラブとは呼ばれていなくて、「指」つまり「立てた中指」と呼ばれています。
設置された2010年当初、政治家や地元有力者たちから の批判的な声が、当然ながら上がり撤去されるとか聞いていたのですが、現在も残っています。
この中指像の前で写真を撮っていく人が絶えず、もちろん雨の日の今日も!
汚職などであんまりもたついていると市民を怒らせて、「モーゼ」プロジェクトも形を変えて中指を立てたようなアートな堤防になってしまうかもしれませんよ。