• 2024.02.16
  • 1984年と2024年の関係
世の中の流れに逆らえないで、流されるままになっている自分の姿を見出した事はありませんか?

例えば、ファッション。

流行り出したファッションにおいて、性格上の問題で私にはなかなか馴染めないどころか、嫌悪感に近いものさえ覚え、そのファッションをしないように抵抗したりするのですが、不思議なもので、見慣れてくる内に最終的にはそのファッションが素敵な気さえしてくるのです。それで、流行りの頂点が過ぎた頃になって購入したりすることも。

そして、洗脳されちゃったかな、と独り言ちるのです。

ところで、年始早々ミラノは、メディアの影響力に付随した騒動が起きています。

その中の一つ、世界的インフルエンサーのキアラ フェラーニのパンドーロ詐欺事件はテレビのニュース上は勿論、web上でも毎日どころか毎時間、報道が更新され世間を賑わせています。まさに、成功の絶頂から地獄に陥ってしまった例の一つ。

簡単に事情を説明すると、彼女がデザインを施した伝統的なお菓子のパンドーロの売上金は、寄付金としてトリノの病院に回されるはずが実際はそうでは無かったので、彼女にブランド化されて高額になったそのパンドーロを買った消費者は騙された、と言う話。

彼女は、事件発端後に慌ててトリノの病院の小児科に高額寄付を行ったそうですが、ソーシャル上では手遅れ。ソーシャルはもう許さない、といった雰囲気がいっぱいです。今回問題になったパンドーロ以外の商品や活動にも捜査が及んでいて、埃が出てきているとか。

クリスマス用にはパンドーロを、そして来たる4月のイースターにもイースターエッグとして大きな卵型チョコレートを彼女がデザインをして高額販売、といったように彼女はブランド化した商品の売り込み作戦には卒が無かったのですが、目下、何を言っても何をしても世間には許してもらえない状態。

挙げ句の果てに、著者ジョージ オーウェルの本「1984年」の格好のモデルに仕立て上げられてしまいました。イギリスには社会風刺アーティスト、バンクシーがいますが、トリノには アンドレア ヴィッラというアーティストがいて、彼は、キアラ フェラーニのブランドロゴの青い瞳と「1984年」のストーリーを重ねて、意味深なストリートアートを発表しました。

彼女の美しい青い瞳がチャーミングポイントの一つでもあるので、それは彼女のブランドロゴですが、今回の事件では皮肉にもそのロゴの瞳が、「1984年」のあらすじの母体となる監視社会を象徴することになった、というストリートアートが生まれたのです。

彼女は国民的英雄のような存在にまで上り詰めた強力な影響力の持ち主ですが、この事件をきっかけにメーカー離れの早いの何のって、そしてその脱落ぶりは彼女が寄付をしようが、謝罪コメントを載せようが、まるで止められない雪崩が崩れ落ちていくような有様。

彼女はインフルエンサーとして大成功をしたけれど、それで持って築き上げた影響力によって、今や自身の首が締められている状態になったという皮肉な状態を私たちに見せているのでした。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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