丁度良いことに、その時間帯にその記者は出勤していて、コーヒーでも一杯一緒に飲みませんか?という私のお誘いに応じてくれたのです。
テレビ番組の撮影には、長い待ち時間が付き物というのを彼は把握しているのでしょう、連れていってくれたのは館内のカフェテリアではなくて、誰もが入れる訳ではないヨという場所をも案内してくれる事になりました。実の所、20年来私はこのテレビ局には何回も働きに来た事があるのですが、探検をした事は無かったのです。
その時彼が手掛けていたプロジェクトは、イタリアの建築家の草分け的存在、ジョー ポンティに関する番組でしたので、撮影セットを見せてくれました。丁度、照明のテストをしたい所で君は良い時に来たから、椅子に座ってください、と頼まれ、ジョー ポンティ作の素敵な椅子に座らせてもらったのです。
このスタジオは、壁や床には高度な吸音材が使用されている以外に、更に驚くべき工作が施されていて、実は宙に浮いている構造になっているのだそう。なので、隣接する部屋で改装工事が始まったとしても、このスタジオは振動音、機械音、工事音の影響を受けないのですって。
ホラーとかアクション映画の見過ぎのせいなのか、そんな高度な防音室の存在を殺人事件と結び付けてしまい、ピストルで打たれそうになって「助けて〜!!」と叫んで暴れても、それこそピストル音も室外には聞こえないっていうこと?と聞き返してしまいました。
そんな私のコメントで彼をガッカリさせたのか、昔から使われ続けている照明器具や撮影器具の説明もそこそこに、この高度な防音室からはさっさと退場となりました。
ジョー ポンティはイタリアの建築家の中で20世紀を代表する第一人者として知られています。本名は、ジョヴァンニ ポンティ。でも、あだ名のジョー ポンティとしか知られていないところから、親しみ易い人柄だったのではないかと想像します。彼が手掛けたデザインや事業は幅が広く、それは他の建築家や様々な分野の人とコラボを盛んにしていた事を裏付けていて、例えば、リチャード ジノリとコラボをした時の陶器のデザイン、壺やフォークやナイフのセット、かと思えば、ミラノ中央駅の前に今でもそびえ立つPirelliビルの設計など、活動的でした。
特に、彼の設計した教会。ロマネスク、ゴシック、ルネッサンス、バロック様式の絢爛な教会が溢れるイタリアで、素敵なモダンな教会建築はなかなか無いのですが、そんな中で彼の作品は素敵だと思います。幾何学的な様式の中に、有機的で人間味のある、そんな調和を感じられます。ミラノ市内で彼の建築物が見られるのは喜ばしい事ですし、彼がデザインした家具などは今でも製造が続けられていて、販売されています。
それでテレビ局内の見学の最後に、昔使っていた映画用の効果音の機材を見せてもらいました。ドアの開閉音、シャッターの開閉音、窓の開閉音などを4、5種類の音が出る4辺をそこにローラー付きの箱のように仕上げて、録音に使用していたわけです。
思いがけず有意義な待ち時間を過ごせました。