イタリアも、同じように伝統技術などを発展させてきた国で、ワインやオリーブオイル製造業、皮製品やムラーノ島のガラス製造、日本でしたら日本酒、陶芸、漆器、友禅や刀鍛冶など、どちらの国も例に切りがありません。
イタリアでは技術が受け継がれるように家族経営を重んじて、それも日本と似ています。家族が代々受け継いだり、場合によっては家族経営の手から離れてより大きなビジネス産業にも発展したケースもありますが、家族経営によって品質と伝統を守り、時代の移り変わりに合わせて革新的な要素を入れる積極的な姿勢もよく似ていると思います。
どちらの国も、長年の訓練と経験を通じて技術を磨いた熟練の職人が多く、また、国がそれらを文化財として保護する傾向のお陰で、どちらの国も豊かな文化のある生活を育んでいると思います。
その中で、世界でも一際目立っているのが、イタリアのファッションやデザインではないでしょうか。
多くのイタリアのファッションブランド、例えば、フェラガモやミッソーニなどは、家族経営の形態をとっていて、それ故に各ブランドの独自性や特徴が守られ、次の世代へと受け継がれて長年にわたるビジネスとして展開されているのです。
その中のプラダ。元々は高級皮革を扱う専門店だったそうですが、創業者の孫のミウッチャさんが、革新的なアイディアとデザインを取り入れて、プラダをファッションの一流ブランドへと成長させました。
プラダの挑戦とも言いますか、思ってもみない面白い活動は、芸術と文化への貢献を目的とする現代アートの複合施設、プラダ財団を設立したことです。とりわけ、かつての蒸溜所を改装したユニークな建築が特徴です。例えば、誰もが見落とすことのない黄金色のタワー。
このタワーは、太陽に光り輝く黄金色とは対照的に、呪われた家という不気味な名前が付けられて、元々蒸留所だったことを記念する作品を展示しています。展示作品は、なんとも言い表わしようの無い不思議な感覚を与える物ばかりです。それ故なのか、異次元に迷い込んだような感覚に陥る場所で、時間の感覚を失うらしく、展示を見終わった時に、思っている以上に時間が経過していた事に驚く人が多いことも興味深いではありませんか。
このプラダ財団の施設は、単なるアート作品の展示場所ではなくて、体験するアートの空間として作られているのが特徴です。
例えば、真っ暗闇の通路を手探り状態でおずおずと歩かされて、先が読めない闇の濃さに、進めずに引き返したがる人もいるのですが、突然目の前に開けた明るい部屋とカラフルな展示作品が現れます。非常に長く感じられる短い暗闇のトンネルとのコントラストが絶妙で、強烈な体験の一つです。
時間や記憶、自然と人間などをテーマに、哲学的な問いかけをする作品に出会う場所なのです。