
実は、イタリアのファッションブランドの多くは家族経営から始まっています。時には、馬具の工房から発展してトップクラスのブランドになった歴史をもつブランドもあったりします。ですが華やかな見た目の裏で、家族間の対立や経営争いが劇的に繰り広げられて、新聞沙汰になった事件が多いです。たとえば、グッチは創業者一族の中で激しい経営権争いがあり、最終的には孫のマウリツィオ・グッチが元妻に殺害されるという衝撃の事件にまで発展。映画『ハウス・オブ・グッチ』でも描かれ、ブランドの歴史が一つの“サスペンスドラマ”として語られてしまうぐらいの濃い背景を持っています。
ヴェルサーチもまた、創業者ジャンニ・ヴェルサーチが銃で命を奪われるという劇的な運命をたどり、ブランドはその後、妹のドナテラに引き継がれました。彼女の派手なファッションと強い個性も、ブランドのアイデンティティの一部となっています。
創業者ミッソーニの息子ヴィットリオ・ミッソーニ夫妻が、ベネズエラで小型飛行機とともに行方不明になり、数ヶ月後に機体の残骸が発見されましたが、事故原因はいまだに謎。
プラダの現C E Oのミウッチャは、仮面劇やサーカスのような芸術活動をしていて、政治活動も盛んだったそうです。そんな血気盛んな彼女の性格や過去がプラダのコレクションに反映されているのです。
さらに興味深いのが、ドルチェ&ガッバーナが巻き込まれた脱税裁判。7年以上にわたる法廷闘争の中で、あまりに感情的な発言が問題視され、「イタリア語では話すな。冷静な印象を与えるため英語で話せ」と、なんとも珍しい“言語戦略”がとられたことも話題になりました。と言うのは、イタリア語は感情表現が豊かで、つまりそれはイタリア人が感情的になりやすいとも言えばいいのですが、怒りや皮肉が強調される特徴があります。なので、ドルチェ&ガッバーナが裁判において感情的な言動をしたことによって、印象が悪くなっていることを懸念した弁護団のアドバイスだったそうです。
このように、イタリアンブランドには、単なる服づくりを超えた“人間ドラマ”が刻まれています。世界中に愛されるイタリアンブランドは、服そのものが持つ素材や縫製の美しさだけでなく、その背後にある「人生の物語」が人々の心に何か訴えるのでは無いでしょうか。都市の文化、職人の誇り、家族の誇り、そして時にはスキャンダルまでもが、そのブランドを唯一無二の存在にしていくのです。
イタリアのブランドを手に取るとき、そこに込められた“物語”にも、ぜひ想像を巡らせてみてください。
